養育費・婚姻費用

子が成人後外国の大学に進学した費用を、父に求めた扶養料支払請求について、父が既に相当額の養育費等を支払っていることや父にとり子の国外の大学への進学が想定外だったことなどを理由に、申立てを却下した事例

出典
家庭の法と裁判33号111頁
事案の概要

子(申立人、1996年生)の父母は、2014年の和解離婚に際し、父(相手方)は母に対し養育費として、2016年4月(子が成年に達する月)まで月25万円を、その時点で子が大学等に在籍しているときは卒業ないし退学する月まで引続き月25万円を支払う、子が大学等在学中に留学を希望する場合、その費用負担に応じる旨を約した。子は、2015年3月に高校卒業後、希望大学に入ることができず、2016年4月から約1年間英会話学校に通い、2017年6月にa国に渡航してb大学提携の語学学校に通い、2018年1月に2年間在籍する予定でb大学に入学した。子は母から、英会話学校の授業料等として約285万円、b大学の授業料、2016年4月から2018年8月までの生活費として合計約690万円の仕送り等を受けた。子は、a国での生活費及び年2回の渡航費用が必要であると主張した。父は母に対し、2014年9月までに離婚の解決金として2035万円を、2016年10月まで養育費として月25万円を支払った。母は、父に対し、翌月以降の養育費の支払いと留学費用の支払いを求めたが、父は拒否した。父は開業医で、2011年の所得は約5065万円であったが、最近の収入についての資料提出を拒んだ。父は2018年にうつ病と診断され、患者の数を減らしながら業務を続けている。母の2018年の収入は約416万円であった。

決定の概要

成年に達した子は、原則として自活すべきであり、成年に達した子に対する親の扶養義務は生活扶助義務にとどまるが、子が四年制大学に進学し学費や生活費が不足する場合は、諸般の事情を考慮して、扶養料の額を定めることも認められる(東京高裁2010(平成22)年7月30日決定)。我が国では、国外の大学に進学することは一般的ではなく、国外の大学への留学費用は高額になる傾向があることは明らかであり、国外の大学に進学する必要性は国内の四年制大学への進学と比べて小さい。そして、父は、子が国内の大学に進学した上で、一時的に留学することは想定していたものの、国外の大学への進学を承諾していた事情は見当たらず、子や母が父に対し、国外の大学進学を検討していることや費用負担について事前に相談した形跡はないこと、子は国外の大学への進学を成人後に決定しており、その判断による責任は子自身が負うべきであること、父から母には既に多額の解決金や養育費を支払われたことを考えると、子は、母の支援を前提に留学したと考えられる。これらに加え、父の体調が芳しくないことを考え併せると、父に国外の大学進学費用を負担すべき義務を負わせるのは相当でないというべきとして、子の申立てを却下した。(KO)

親権・監護権・子の引渡し

親権者である養父及び実母から虐待を受け、一時保護の措置がとられている子について、児童相談所長による親権停止の申立てを却下した原審判を取り消し、親権を2年間停止するのが相当であるとした事例

出典
家庭の法と裁判33号72頁
事案の概要

子(2008年生)は、生後8か月以来、乳児院や児童養護施設で育った。他のきょうだいらも2010年までには同じ施設に入所していた。母は2013年に男性と婚姻し、子らは同男性と養子縁組した。親権者らは、その後姉2名を引き取った。子と兄とは、2015年8月頃から親権者ら宅に外泊するようになり、2017年8月、両名につき施設入所措置が解除されて引き取られた。同年12月、子は、屋外で発見され、児童虐待のおそれがあるとして児童相談所長に通告(児童福祉法25条1項本文)がなされた。子につき一時保護の措置をとった同所長は、2018年4月、原審に対し、親権者らの子に対する親権を2年間停止することを求める申し立てをした(同法33条の7)。子(当時小学5年)は、利害関係参加し、上記外泊時や家庭に引き取られた後に、親権者らから暴力を振るわれたり、放置されたりした旨述べ、親権者らの親権停止を希望した。

原審は、親権者らは子に対し相当な頻度で暴力を振るい、食事を抜き、そのために子は親権者らに対して強い恐怖心を抱いていたと認め、一時保護の措置を受ける以前の親権者らの親権の行使は不適当であり、子の利益を害するものであったとしたが、一時保護が行われた現時点では、親権者らは一時保護を妨害する姿勢を示しておらず、親権者らが適切な養育選択を妨げるような行動をとったり、必要な手続への同意など親権者として行うべき行為を理由もなく怠って子の利益を害しているという事情も生じていないことなどから、「子の利益を害する」との要件(民法834条の2第1項)を満たすとはいえないとして、申立てを却下した。これに対し、子と児童相談所長とが抗告した。

決定の概要

親権者らは、子が親権者ら宅で外泊するようになった2015年8月頃から、一時保護の措置がとられた2017年12月頃まで、子に対し、殴る、たたく、屋外に出す、トイレに長時間閉じ込める、食事を抜く、長時間正座をさせる、子の面前で姉を鎖で縛るなどの行為を繰り返していたものと認められ、これが子に対する重大な虐待行為に該当することは明らかである。親権者らの子に対する養育実績はほとんどなく、今後子を適切に養育できると期待することはできない。子は親権者らに強い恐怖心を抱いており、子の今後の健全な成長のためには、親権者らの影響が心理的にも及ばないと子が明確に自覚し得るような環境が必須である。子は親権の停止を希望し、子の原審手続代理人も親権停止が相当であるとの意見を述べている。子が親権者らを拒絶する気持ちは強く、今後、親子として再統合を果たす可能性は極めて小さい。以上によれば、親権者らによる親権の行使が不適当であり、そのことにより子の利益を害することは明らかであるから、民法834条の2を適用し、親権者らの子に対する親権を2年間停止するのが相当であるとした。(KI)

面会交流

母による面会交流の審判前の保全処分申立てについて、子が拒絶的な姿勢を強めつつあるのは身近な大人の影響によるものであり、この状態を解消するためには早期に未成年者自身の感覚や体験を通して母を理解する機会を設けることが必要であり、母ががんに罹患し余命告知されている状況に鑑みて面会交流を仮に認めた原審の判断を維持した事例

出典
家庭の法と裁判33号59頁
事案の概要

母(相手方、原審申立人)は、2016年、がんと診断され、入院して手術を受けた。その後、父母の関係は悪化し、2017年8月、父は、子(原審審判時小学5年)を連れて実家に転居し、母と別居した。子は父、父の母、父の祖母、叔父との5人暮らしである。同年12月、母は面会交流調停を申し立てた。別居後、母は子に誕生日プレゼントや手紙を送るなどしていたが、2018年1月、父の求めにより子と母とのLINE連絡は中断した。2019年1月、父母は、母の余命が1か月ないし3か月程度であると知った。父は、同年2月の第7回調停期日においても面会に応じる姿勢をみせず、母は調停申立てを取り下げた。同年4月、母は再度、面会交流調停及び本件保全処分の申立てをした。原審は、前回調停時の家裁調査官面接では子は母との生活を全体としては肯定的に受け止めていたが、本件調停時の面接では拒絶的姿勢を強めており、その表現内容から、子自身の体験に基づくというよりも、父やその親族等の母に対する否定的な発言の影響によるもので、子が心身共に健全な成長を遂げるには子の認識を修正し母のイメージを修復していく必要があり(本案認容の蓋然性)、かつ母が余命告知を受けたという状況に照らして面会の機会を早急に設ける必要がある(保全の必要性)と判断し、月1回1時間程度で、父が指定する者の立会いを可能とする面会交流を仮に定めた。父が抗告した。

決定の概要

原審判の認定説示に加え、「未成年者の過剰ともいえる拒絶的な反応をみれば、未成年者は、現在身の回りの世話を頼っている環境において、相手方の情愛を肯定的に受け止められる助言を得られておらず、むしろ、霊的なものによる攻撃等という容易に払拭することができない説明が未成年者に強い影響を及ぼしていることが認められる。未成年者の拒絶的姿勢が、身近な大人の影響によるものであることが、単なる抽象的な可能性であるとはいえない」、「将来、未成年者が母の情に思いを致す時が来るかもしれないことを考慮するとき、自ら面会交流を拒否したというようなことになれば、それは、未成年者に取り返しのつかない悔いを残してしまうことにもなりかねない」とし、母にとって、「面会交流の場で直ちに自らの思いが未成年者に伝わることは期待できず、むしろ未成年者の心情を受け止める機会にとどまることも覚悟すべきではあるが」とも述べた上で、母の病状に鑑みれば、未成年者の福祉のため早期に面会交流を実施すべきであるとして原審の判断を維持した。(B)

ハーグ実施法

母が父に対し、ハーグ条約実施法に基づく子の返還を求めた事案において、子の常居所地国を米国とした上で、同法28条1項4号(重大な危険)の返還拒否事由があると認められないことから、子の返還を命じた原決定を相当とし、父の抗告を棄却した事例

出典
家庭の法と裁判32号52頁
事案の概要

父母は、婚姻して日本で生活し、その後いずれも帰化して日本国籍となった。2013年3月に、米国における主に短期の商用を目的とするB1ビザを取得した。2014年に日本で子(日本国籍)をもうけ、日本で生活していたが、2017年7月に子を連れて渡米し(本件渡米)、同年12月には、母を代表者とする法人を設立した(本件法人)。本件法人は、2018年9月にレストランの事業譲渡を受け、同年11月に同レストランのフランチャイズ契約を締結した。父母は、投資等の事業を進めると同時に、米国での事業に必要なE2ビザの取得手続を進めていた。2019年2月に父母は子を連れて来日し(2月来日)、同月、父母の出生地である海外の地域(A)に里帰りした。同年4月18日、父は母に告げることなく、子を連れてAから日本に渡航した(本件来日)。現在、父は、日本で稼働しており、子(5歳)は日本で保育園に通っている。母は、201912月、東京家裁に対し、子を米国に返還するよう求める本件申立てをした。

原審は、子の常居所地国の認定につき、子が幼い場合には、当該居所の定住に向けた両親の意図を考慮して判断するのが相当とし、本件渡米は父母が米国で事業を行うことを具体的に計画・実施したものであること、事業実現に向けて行動し、E2ビザの取得手続を進めてきたこと等に照らすと、本件渡米は、米国での投資等の事業を成功させるまでの相当長期間にわたって居住する目的で行われたものというべきとした。また、本件渡米から2月来日までの約1年7か月の間、子は、米国において、健康保険に加入し、幼稚園に通い、英語を使用して生活しており、子は、相当長期間、米国で安定的に生活していたと認められるから、子の常居所地国は米国であるとした。その上で、父母及び子には米国での在留資格がなく、子を米国で監護することが困難なので、子を返還することにより子の心身に害悪を及ぼしその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとの主張に対し、父母も子もビザ免除プログラム(ESTAの申請)により適法に米国に入国又は滞在することが可能であること等に照らすと、ハーグ条約実施法28条1項4号の「重大な危険」を生じさせることにはならないとし、母による子の返還の申立てを認容した。これに対して、父が即時抗告をした。

決定の概要

原審の認定判断をほぼ全面的に是認し、「少なくとも本件法人がレストランの事業譲渡を受けてその経営を開始した後は、米国に相当長期に滞在する意図であったことが認められ、このような両親の意図に基づき」、子は、「本件渡米から2月来日までの約1年7か月の相当長期間米国に滞在し、その間、住居や幼稚園等、安定した生活環境の下で養育されてきたことを考慮すると、本件子の常居所地は米国であったことが明らかである。」とし、「重大な危険」も認められないとして、父の抗告を棄却した。(KI)

ハーグ実施法

父がハーグ条約実施法に基づき子をスリランカに返還するよう求めた事案において、子の常居所地国はスリランカではないとして、子の返還申立てを却下した原決定は相当であるとして抗告を棄却した事例

出典
判例時報 2480号21頁、家庭の法と裁判32号62頁
事案の概要

父と母(ともに元スリランカ国籍)は、婚姻して2002年以降日本で生活し、この間、長女及び子(2012年生)をもうけた。2017年には、一家4人で帰化した。同年7月から2019年4月までの間、一家はスリランカと日本との間を多数回往来し、子は、2017年9月から2019年4月までの間は、概ねスリランカに居住して同国の学校に通学し、その長期休暇中に日本に帰国して日本の小学校に通った。2018年8月頃から父母は国内で別居し、母は父に対し、子らの監護者指定等の調停等を家裁に申し立てた。2019年4月、母は、子とともにシェルターに入り、子を留置した。父はスリランカに渡航し、同年6月、母に対し、母による日本での子の留置により父の子に対する監護の権利を侵害されたと主張して、ハーグ条約実施法に基づき、子をその常居所地国(法2条5号)であるスリランカに返還するよう申し立てた。原審は、子の常居所地国は日本であり、スリランカではないとして本件申立てを却下した。父が即時抗告をした。

決定の概要

常居所を認定するにあたっては、居住年数、居住目的、居住状況等を総合的に勘案して認定すべきである。「特に子が低年齢である場合には、子の常居所の獲得については、以前の常居所を放棄し新たな居所に定住するとの両親の共通の意思を重視すべきである。」とし、子を日本において日本人として養育していくことが父母の共通の監護方針であったことは明らかで、子は、この監護方針に沿って家族とともに帰化した上、約5年間にわたって日本において日本人として生活してきたこと、父が2017年9月に子らとスリランカに渡航するに当たっても、自宅や住民票及び父の仕事は日本に残されたままであったこと、母は、当該渡航は夫婦関係が改善するまでの一時的なものと理解していたことなどに照らせば、「日本における常居所を放棄し、スリランカに定住するという抗告人(父)と相手方の共通の意思は形成されていないものというべきである。」また、子は、2017年7月にスリランカに渡航し、同年9月から現地の学校に通学していたものの、同校の長期休暇の都度、日本に帰国して日本の自宅で生活したり、日本の小学校に通学していた上、出生以来、5年余の間、日本人として日本語を母国語として日本の生活風習の中で養育されてきたことなどからすれば、留置がされた時点において、子の社会的結び付きも、スリランカよりも日本の方が強かったということができるし、父と母との間には、子について、監護者指定等の裁判も我が国の家庭裁判所に係属していた。そうすると、子の常居所地国は日本であり、スリランカであるとは認められない。したがって、原決定は相当であるとした。(B)

養育費・婚姻費用

実父が子の養子縁組の可能性を認識しながら調査、確認せず3年余にわたり約720万円の養育費を支払い続けたこと等を考慮し、実父の養育費支払義務が免除される始期は実父が養育費免除の調停を申し立てた月であるとした事例

出典
判例時報 2480号3頁
事案の概要

抗告人(母)と相手方(実父)は、2014年5月、未成年の子3名の養育費として、実父が母に、子らがそれぞれ大学を卒業する月まで、1人当たり月額6万円を支払うこと及び実父と母の親族構成に変化があったときは、遅滞なく他方に通知することなどを合意して協議離婚した。2015年11月、母は再婚し、翌月、再婚相手(養父、原審利害関係参加人)は子らと養子縁組した。2018年の実父の給与収入は年1320万円、養父の課税所得は年3870万円であった。実父は2019年5月、養育費の支払い免除を求めて調停を申し立て、その後審判に移行した。原審は、養子縁組により実父の養育費支払義務は、2015年12月の縁組日から免除されるとした。母と養父とが抗告した。

決定の概要

子が親権者の再婚相手と養子縁組した場合、子の扶養義務は、第1次的には親権者及び養親が負うべきものであり、親権者及び養親がその資力の点で十分に扶養義務を履行できないときに限り、第2次的に実親が負担すべきことになるから、養父が高額の連帯保証債務を負っていることなどの事情があるとしても、抗告人ら(母及び養父)がその資力の点で子らに対して十分に扶養義務を履行できない状況にあるとは言い難いとして、実父の養育費支払義務を免除するのが相当とした。他方で、養育費支払義務の免除の始期については、養子縁組の翌月(2016年1月)以降、実父は合計720万円の養育費と長女の留学に伴う授業料を支払ったもので、既に支払われて費消された過去の養育費につき法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは、抗告人らに不測の損害を被らせること、実父は母から2015年11月に養子縁組をする予定との報告を受けており、養子縁組の有無を調査、確認することが可能な状態にあったこと、実父は子らの福祉の充実の観点から養育費を支払い続けたものと評価することも可能であること等を総合考慮して、実父が養育費の支払い免除の調停を申し立てた2019年5月からに変更した。(B)

養育費・婚姻費用

前件審判後の抑うつ状態のための減収を理由とする婚姻費用減額の申立てについて、前件審判を変更すべき理由が認められないとして、減額変更を認めた原審判を取り消し申立てを却下した例

出典
家庭の法と裁判31号64頁
事案の概要

夫婦は2011年に婚姻したが、2016年1月から別居し、妻は子(2012年生)と生活している。妻は同年4月に婚姻費用分担調停を申し立て、同年12月、夫に月6万円の支払いを命じる審判が出て、確定した。夫は2018年4月まで月6万円の婚姻費用を支払っていたが、子と面会できなくなった同年5月以降一切支払わなくなった。夫は同年10月、抑うつ状態で勤務先を退職し,求職活動をしているが不採用となっていることなどを理由として婚姻費用分担金を0円とするよう求める婚姻費用減額調停を申し立てた。原審は、夫の精神状態、年齢、従前の職歴等考慮し、従前の総収入の6割の収入を得られる蓋然性はあるとして、減額した月3万円の支払いを命じた。夫は即時抗告した。

決定の概要

夫(原審申立人、抗告人)の稼働能力について、夫は2018年10月20日に勤務先を自主退職したが、退職直前の収入は前件審判時における収入と大差なかったこと、抑うつ状態のため休業加療が必要であるとする診断書には具体的症状の記載がなくどのような形態であれば就労可能であるのか明らかではないこと、夫は退職後、2019年春頃に第一種衛生管理者の免許等を取得し、2019年秋頃には大学の通信教育課程の入学試験に合格し、2020年に入学予定であること等から就労困難であるほどの抑うつ状態であるとは認められないこと、婚姻費用を支払わないのに大学の入学金や学費20万円を支払っているのは不相当であることなどから、夫は前件審判当時と同程度の収入を得る稼働能力を有しているとみるべきであるとした。したがって、夫の精神状態や収入の減少は婚姻費用分担金を減額すべき事情の変更ということはできないとして、原審判を取り消し、夫の申立てを却下した。(KO)

ハーグ実施法

父が母に対し、ハーグ条約実施法に基づく子の返還を求めた事案において、母が自殺する可能性があることで同法28条1項4号(重大な危険)の返還拒否事由があるとした原決定を取り消し、同事由等は認められないとして子の返還を命じた事例

出典
家庭の法と裁判31号70頁
事案の概要

日本人母とアメリカ人父は、2016年にアメリカで子をもうけ、子は出生以来、アメリカで生活していた。母は、2017年1月までに父から暴力を受けたとして病院に通院したことがあった。父は、かねてより大麻を喫煙・購入し、2018年には大麻を所持したとして逮捕された。

2018年10月、父母は、均等に子を監護すること、休暇を目的として毎年3週間子と過ごすことができること、母については子を連れて3週間日本に滞在できること等を内容とする養育計画に合意した。同年12月、母は子を連れて日本に入国したが、3週間を経過してもアメリカに帰国せず、父に対して帰国の意思がない旨記載したメッセージを送付した。2019年2月、アメリカの裁判所は、父の申立てに基づき子の引取命令を発令した。このため、母がアメリカの管轄州内に入った場合、子を父に引渡すよう命ぜられ、逮捕・収監される可能性がある。

2019年7月、父は、東京家裁に対し、子の返還を申し立てた。家事調停に付され、子を常居所地国であるアメリカに返還する方向で協議が進められたが、調停は不成立となり、決定予定日を同年9月3日とすることが告知された。その数日前である同年8月、母は遺書を残した上で、致死量を超える薬剤を摂取し、自殺未遂に及んだ。

原審(東京家裁)は、父による大麻使用が子の心身に有害な影響を及ぼすか、母が父から子に心理的外傷を与えることになる暴力等を受けるおそれがあるか、及び、父又は母が常居所地国において子を監護することの困難性について、それぞれハーグ条約実施法28条2項1号から3号の掲げる事情に該当しないと判断した。しかし、母が及んだ自殺未遂については、親権をめぐる係争が誘因となっており、子の返還を命じた場合に母が再度自殺を企図する可能性は高く、母との死別という耐え難い状況に子を置くことになるから、同法28条1項4号の規定する「重大な危険」があるとして、子の返還申立てを却下した。父が即時抗告した。

決定の概要

母には精神病の既往歴がなく、自殺未遂は発作的なものであり、また、事後の経過についても、退院後の精神状態に不安定なところはみられず、親族等が自殺予防措置を講じている様子はうかがわれず、勤務を継続することが可能である等、希死念慮が重大かつ切迫したものとは認め難い。母の無力感、絶望感等からくる自殺衝動や希死念慮の高まりは、一時的な現実検討能力及び判断力低下によるもので、精神科医師らによる医療的介入や治療行為、親族等による自殺予防の措置等により回避されるべきものであり、必要かつ有効な措置等が講じられる限り、子の返還を命じた場合に母が自殺をする可能性は高いとはいえない。以上から、上記自殺未遂の事実をもって、ハーグ条約実施法28条1項4号の規定する「重大な危険」があるとまで認めるには足りず、「この判断は本決定告知後に相手方(注:母)が再度自殺を試みる可能性自体を否定できないことによって左右されない。」として、原決定を取り消し、母に対し、子をアメリカに返還するよう命じた。(KI)

面会交流

父母以外の第三者は事実上子を監護してきた者であっても、子の監護に関する処分として子との面会交流について定める審判を申し立てることはできないとして、祖父母からの面会交流の申立てを不適法とした件

出典
裁判所ウェブサイト
事案の概要

父は、婚姻した母と子(2016年生)とともに、母の親である祖父母方で同居していたが、2017年以降家を出て別居した。その後、父は母と交替で子を監護したが、祖父母らは母による監護を補助していた。母が死亡後は父が子を監護している。祖父母らは、子との面会交流を定める審判を申し立てた。原審(大阪高裁2019(令和元)年11月29日判決)は、父母以外の事実上子を監護してきた第三者が、子との面会交流を認めることが子の利益にかなう場合には、民法766条1項及び2項の類推適用により、子の監護に関する処分として上記の面会交流を認める余地がある、祖父母は母を補助して事実上子を監護してきた者であるから、本件面会交流を認めることが子の利益にかなうか否かなどを審理することなく、本件申立てを不適法として却下することはできない、として、祖父母の申立てを不適法として却下した原々審判を取り消し、原々審に差し戻した。父が許可抗告を申し立て、許可された。

決定の概要

民法766条1項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者その他必要な事項は、父母が協議をして定めるものとし、これを受けて同条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないが、父母以外の第三者に上記申立てを許容する根拠となるものではない。したがって、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分としての面会交流を定める審判の申立てをすることはできないと解するのが相当である。祖父母らは、母による子の監護を補助してきたが、子の父母ではないから、家庭裁判所に対し、子との面会交流を定める審判の申立てをすることはできない。祖父母らの本件申立ては、不適法というべきである。子の監護に関する処分の申立てを却下する審判に対して即時抗告をすることができるのは「子の父母及び子の監護者」であり、祖父母らはそのいずれにも該当しないため、原々審判に対する祖父母らの抗告は不適法であるとして、これを却下した。(B)

親権・監護権・子の引渡し

父母以外の第三者は事実上子を監護してきた者であっても、子の監護に関する処分として子の監護者指定の審判申立てをすることができないとして、祖母からの監護者指定の申立てを不適法とした件

出典
裁判所ウェブサイト
事案の概要

※本件は、大阪高裁2020(令和2)年1月16日決定(本サイトにて紹介済み)の許可抗告審である。

母は前夫と、子の親権者を母と定めて離婚した。母と子の祖母とは一緒に子を監護していたことがあるが、2017年8月頃以後、祖母が単独で子を監護している。2018年3月、母はYと婚姻し、その際、Yは子と養子縁組をした。祖母は、母及びYを相手方として、子の監護をすべき者を祖母と定める審判を申し立てた。原審は、子の福祉を全うするため、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護をすべき者を定める審判の申し立てをすることができると解すべきとして、子の監護者を、事実上子の監護をしてきた祖母と指定した。母とYとが許可抗告を申し立て、許可された。

決定の概要

民法766条1項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者その他必要な事項は、父母が協議をして定めるものとし、これを受けて同条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないが、父母以外の第三者に子の監護をすべき者を定める審判の申立てを許容する根拠となるものではない。「したがって、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である。」祖母の本件申立ては、不適法というべきであるとして、原決定を破棄し、原々決定を取り消した。(B)