ハーグ実施法

母が父に対し、ハーグ条約実施法に基づく子の返還を求めた事案において、子の常居所地国を米国とした上で、同法28条1項4号(重大な危険)の返還拒否事由があると認められないことから、子の返還を命じた原決定を相当とし、父の抗告を棄却した事例

出典
家庭の法と裁判32号52頁
事案の概要

父母は、婚姻して日本で生活し、その後いずれも帰化して日本国籍となった。2013年3月に、米国における主に短期の商用を目的とするB1ビザを取得した。2014年に日本で子(日本国籍)をもうけ、日本で生活していたが、2017年7月に子を連れて渡米し(本件渡米)、同年12月には、母を代表者とする法人を設立した(本件法人)。本件法人は、2018年9月にレストランの事業譲渡を受け、同年11月に同レストランのフランチャイズ契約を締結した。父母は、投資等の事業を進めると同時に、米国での事業に必要なE2ビザの取得手続を進めていた。2019年2月に父母は子を連れて来日し(2月来日)、同月、父母の出生地である海外の地域(A)に里帰りした。同年4月18日、父は母に告げることなく、子を連れてAから日本に渡航した(本件来日)。現在、父は、日本で稼働しており、子(5歳)は日本で保育園に通っている。母は、201912月、東京家裁に対し、子を米国に返還するよう求める本件申立てをした。

原審は、子の常居所地国の認定につき、子が幼い場合には、当該居所の定住に向けた両親の意図を考慮して判断するのが相当とし、本件渡米は父母が米国で事業を行うことを具体的に計画・実施したものであること、事業実現に向けて行動し、E2ビザの取得手続を進めてきたこと等に照らすと、本件渡米は、米国での投資等の事業を成功させるまでの相当長期間にわたって居住する目的で行われたものというべきとした。また、本件渡米から2月来日までの約1年7か月の間、子は、米国において、健康保険に加入し、幼稚園に通い、英語を使用して生活しており、子は、相当長期間、米国で安定的に生活していたと認められるから、子の常居所地国は米国であるとした。その上で、父母及び子には米国での在留資格がなく、子を米国で監護することが困難なので、子を返還することにより子の心身に害悪を及ぼしその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとの主張に対し、父母も子もビザ免除プログラム(ESTAの申請)により適法に米国に入国又は滞在することが可能であること等に照らすと、ハーグ条約実施法28条1項4号の「重大な危険」を生じさせることにはならないとし、母による子の返還の申立てを認容した。これに対して、父が即時抗告をした。

決定の概要

原審の認定判断をほぼ全面的に是認し、「少なくとも本件法人がレストランの事業譲渡を受けてその経営を開始した後は、米国に相当長期に滞在する意図であったことが認められ、このような両親の意図に基づき」、子は、「本件渡米から2月来日までの約1年7か月の相当長期間米国に滞在し、その間、住居や幼稚園等、安定した生活環境の下で養育されてきたことを考慮すると、本件子の常居所地は米国であったことが明らかである。」とし、「重大な危険」も認められないとして、父の抗告を棄却した。(KI)

ハーグ実施法

父がハーグ条約実施法に基づき子をスリランカに返還するよう求めた事案において、子の常居所地国はスリランカではないとして、子の返還申立てを却下した原決定は相当であるとして抗告を棄却した事例

出典
判例時報 2480号21頁,家庭の法と裁判 32号62頁
事案の概要

父と母(ともに元スリランカ国籍)は、婚姻して2002年以降日本で生活し、この間、長女及び子(2012年生)をもうけた。2017年には、一家4人で帰化した。同年7月から2019年4月までの間、一家はスリランカと日本との間を多数回往来し、子は、2017年9月から2019年4月までの間は、概ねスリランカに居住して同国の学校に通学し、その長期休暇中に日本に帰国して日本の小学校に通った。2018年8月頃から父母は国内で別居し、母は父に対し、子らの監護者指定等の調停等を家裁に申し立てた。2019年4月、母は、子とともにシェルターに入り、子を留置した。父はスリランカに渡航し、同年6月、母に対し、母による日本での子の留置により父の子に対する監護の権利を侵害されたと主張して、ハーグ条約実施法に基づき、子をその常居所地国(法2条5号)であるスリランカに返還するよう申し立てた。原審は、子の常居所地国は日本であり、スリランカではないとして本件申立てを却下した。父が即時抗告をした。

決定の概要

常居所を認定するにあたっては、居住年数,居住目的,居住状況等を総合的に勘案して認定すべきである。「特に子が低年齢である場合には,子の常居所の獲得については,以前の常居所を放棄し新たな居所に定住するとの両親の共通の意思を重視すべきである。」とし、子を日本において日本人として養育していくことが父母の共通の監護方針であったことは明らかで、子は、この監護方針に沿って家族とともに帰化した上、約5年間にわたって日本において日本人として生活してきたこと、父が2017年9月に子らとスリランカに渡航するに当たっても、自宅や住民票及び父の仕事は日本に残されたままであったこと、母は、当該渡航は夫婦関係が改善するまでの一時的なものと理解していたことなどに照らせば、「日本における常居所を放棄し,スリランカに定住するという抗告人(父)と相手方の共通の意思は形成されていないものというべきである。」また,子は,2017年7月にスリランカに渡航し,同年9月から現地の学校に通学していたものの,同校の長期休暇の都度、日本に帰国して日本の自宅で生活したり、日本の小学校に通学していた上、出生以来、5年余の間、日本人として日本語を母国語として日本の生活風習の中で養育されてきたことなどからすれば、留置がされた時点において,子の社会的結び付きも,スリランカよりも日本の方が強かったということができるし,父と母との間には、子について、監護者指定等の裁判も我が国の家庭裁判所に係属していた。そうすると、子の常居所地国は日本であり,スリランカであるとは認められない。したがって、原決定は相当であるとした。(B)

養育費・婚姻費用

実父が子の養子縁組の可能性を認識しながら調査、確認せず3年余にわたり約720万円の養育費を支払い続けたこと等を考慮し、実父の養育費支払義務が免除される始期は実父が養育費免除の調停を申し立てた月であるとした事例

出典
判例時報 2480号3頁
事案の概要

抗告人(母)と相手方(実父)は、2014年5月、未成年の子3名の養育費として、実父が母に、子らがそれぞれ大学を卒業する月まで、1人当たり月額6万円を支払うこと及び実父と母の親族構成に変化があったときは、遅滞なく他方に通知することなどを合意して協議離婚した。2015年11月、母は再婚し、翌月、再婚相手(養父、原審利害関係参加人)は子らと養子縁組した。2018年の実父の給与収入は年1320万円、養父の課税所得は年3870万円であった。実父は2019年5月、養育費の支払い免除を求めて調停を申し立て、その後審判に移行した。原審は、養子縁組により実父の養育費支払義務は、2015年12月の縁組日から免除されるとした。母と養父とが抗告した。

決定の概要

子が親権者の再婚相手と養子縁組した場合、子の扶養義務は、第1次的には親権者及び養親が負うべきものであり、親権者及び養親がその資力の点で十分に扶養義務を履行できないときに限り、第2次的に実親が負担すべきことになるから、養父が高額の連帯保証債務を負っていることなどの事情があるとしても、抗告人ら(母及び養父)がその資力の点で子らに対して十分に扶養義務を履行できない状況にあるとは言い難いとして、実父の養育費支払義務を免除するのが相当とした。他方で、養育費支払義務の免除の始期については、養子縁組の翌月(2016年1月)以降、実父は合計720万円の養育費と長女の留学に伴う授業料を支払ったもので、既に支払われて費消された過去の養育費につき法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは、抗告人らに不測の損害を被らせること、実父は母から2015年11月に養子縁組をする予定との報告を受けており、養子縁組の有無を調査、確認することが可能な状態にあったこと、実父は子らの福祉の充実の観点から養育費を支払い続けたものと評価することも可能であること等を総合考慮して、実父が養育費の支払い免除の調停を申し立てた2019年5月からに変更した。(B)

養育費・婚姻費用

前件審判後の抑うつ状態のための減収を理由とする婚姻費用減額の申立てについて、前件審判を変更すべき理由が認められないとして、減額変更を認めた原審判を取り消し申立てを却下した例

出典
家庭の法と裁判31号64頁
事案の概要

夫婦は2011年に婚姻したが、2016年1月から別居し、妻は子(2012年生)と生活している。妻は同年4月に婚姻費用分担調停を申し立て、同年12月、夫に月6万円の支払いを命じる審判が出て、確定した。夫は2018年4月まで月6万円の婚姻費用を支払っていたが、子と面会できなくなった同年5月以降一切支払わなくなった。夫は同年10月、抑うつ状態で勤務先を退職し,求職活動をしているが不採用となっていることなどを理由として婚姻費用分担金を0円とするよう求める婚姻費用減額調停を申し立てた。原審は、夫の精神状態、年齢、従前の職歴等考慮し、従前の総収入の6割の収入を得られる蓋然性はあるとして、減額した月3万円の支払いを命じた。夫は即時抗告した。

決定の概要

夫(原審申立人、抗告人)の稼働能力について、夫は2018年10月20日に勤務先を自主退職したが、退職直前の収入は前件審判時における収入と大差なかったこと、抑うつ状態のため休業加療が必要であるとする診断書には具体的症状の記載がなくどのような形態であれば就労可能であるのか明らかではないこと、夫は退職後、2019年春頃に第一種衛生管理者の免許等を取得し、2019年秋頃には大学の通信教育課程の入学試験に合格し、2020年に入学予定であること等から就労困難であるほどの抑うつ状態であるとは認められないこと、婚姻費用を支払わないのに大学の入学金や学費20万円を支払っているのは不相当であることなどから、夫は前件審判当時と同程度の収入を得る稼働能力を有しているとみるべきであるとした。したがって、夫の精神状態や収入の減少は婚姻費用分担金を減額すべき事情の変更ということはできないとして、原審判を取り消し、夫の申立てを却下した。(KO)

ハーグ実施法

父が母に対し、ハーグ条約実施法に基づく子の返還を求めた事案において、母が自殺する可能性があることで同法28条1項4号(重大な危険)の返還拒否事由があるとした原決定を取り消し、同事由等は認められないとして子の返還を命じた事例

出典
家庭の法と裁判31号70頁
事案の概要

日本人母とアメリカ人父は、2016年にアメリカで子をもうけ、子は出生以来、アメリカで生活していた。母は、2017年1月までに父から暴力を受けたとして病院に通院したことがあった。父は、かねてより大麻を喫煙・購入し、2018年には大麻を所持したとして逮捕された。

2018年10月、父母は、均等に子を監護すること、休暇を目的として毎年3週間子と過ごすことができること、母については子を連れて3週間日本に滞在できること等を内容とする養育計画に合意した。同年12月、母は子を連れて日本に入国したが、3週間を経過してもアメリカに帰国せず、父に対して帰国の意思がない旨記載したメッセージを送付した。2019年2月、アメリカの裁判所は、父の申立てに基づき子の引取命令を発令した。このため、母がアメリカの管轄州内に入った場合、子を父に引渡すよう命ぜられ、逮捕・収監される可能性がある。

2019年7月、父は、東京家裁に対し、子の返還を申し立てた。家事調停に付され、子を常居所地国であるアメリカに返還する方向で協議が進められたが、調停は不成立となり、決定予定日を同年9月3日とすることが告知された。その数日前である同年8月、母は遺書を残した上で、致死量を超える薬剤を摂取し、自殺未遂に及んだ。

原審(東京家裁)は、父による大麻使用が子の心身に有害な影響を及ぼすか、母が父から子に心理的外傷を与えることになる暴力等を受けるおそれがあるか、及び、父又は母が常居所地国において子を監護することの困難性について、それぞれハーグ条約実施法28条2項1号から3号の掲げる事情に該当しないと判断した。しかし、母が及んだ自殺未遂については、親権をめぐる係争が誘因となっており、子の返還を命じた場合に母が再度自殺を企図する可能性は高く、母との死別という耐え難い状況に子を置くことになるから、同法28条1項4号の規定する「重大な危険」があるとして、子の返還申立てを却下した。父が即時抗告した。

決定の概要

母には精神病の既往歴がなく、自殺未遂は発作的なものであり、また、事後の経過についても、退院後の精神状態に不安定なところはみられず、親族等が自殺予防措置を講じている様子はうかがわれず、勤務を継続することが可能である等、希死念慮が重大かつ切迫したものとは認め難い。母の無力感、絶望感等からくる自殺衝動や希死念慮の高まりは、一時的な現実検討能力及び判断力低下によるもので、精神科医師らによる医療的介入や治療行為、親族等による自殺予防の措置等により回避されるべきものであり、必要かつ有効な措置等が講じられる限り、子の返還を命じた場合に母が自殺をする可能性は高いとはいえない。以上から、上記自殺未遂の事実をもって、ハーグ条約実施法28条1項4号の規定する「重大な危険」があるとまで認めるには足りず、「この判断は本決定告知後に相手方(注:母)が再度自殺を試みる可能性自体を否定できないことによって左右されない。」として、原決定を取り消し、母に対し、子をアメリカに返還するよう命じた。(KI)

面会交流

父母以外の第三者は事実上子を監護してきた者であっても、子の監護に関する処分として子との面会交流について定める審判を申し立てることはできないとして、祖父母からの面会交流の申立てを不適法とした件

出典
裁判所ウェブサイト
事案の概要

父は、婚姻した母と子(2016年生)とともに、母の親である祖父母方で同居していたが、2017年以降家を出て別居した。その後、父は母と交替で子を監護したが、祖父母らは母による監護を補助していた。母が死亡後は父が子を監護している。祖父母らは、子との面会交流を定める審判を申し立てた。原審(大阪高裁2019(令和元)年11月29日判決)は、父母以外の事実上子を監護してきた第三者が、子との面会交流を認めることが子の利益にかなう場合には、民法766条1項及び2項の類推適用により、子の監護に関する処分として上記の面会交流を認める余地がある、祖父母は母を補助して事実上子を監護してきた者であるから、本件面会交流を認めることが子の利益にかなうか否かなどを審理することなく、本件申立てを不適法として却下することはできない、として、祖父母の申立てを不適法として却下した原々審判を取り消し、原々審に差し戻した。父が許可抗告を申し立て、許可された。

決定の概要

民法766条1項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者その他必要な事項は、父母が協議をして定めるものとし、これを受けて同条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないが、父母以外の第三者に上記申立てを許容する根拠となるものではない。したがって、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分としての面会交流を定める審判の申立てをすることはできないと解するのが相当である。祖父母らは、母による子の監護を補助してきたが、子の父母ではないから、家庭裁判所に対し、子との面会交流を定める審判の申立てをすることはできない。祖父母らの本件申立ては、不適法というべきである。子の監護に関する処分の申立てを却下する審判に対して即時抗告をすることができるのは「子の父母及び子の監護者」であり、祖父母らはそのいずれにも該当しないため、原々審判に対する祖父母らの抗告は不適法であるとして、これを却下した。(B)

親権・監護権・子の引渡し

父母以外の第三者は事実上子を監護してきた者であっても、子の監護に関する処分として子の監護者指定の審判申立てをすることができないとして、祖母からの監護者指定の申立てを不適法とした件

出典
裁判所ウェブサイト
事案の概要

※本件は、大阪高裁2020(令和2)年1月16日決定(本サイトにて紹介済み)の許可抗告審である。

母は前夫と、子の親権者を母と定めて離婚した。母と子の祖母とは一緒に子を監護していたことがあるが、2017年8月頃以後、祖母が単独で子を監護している。2018年3月、母はYと婚姻し、その際、Yは子と養子縁組をした。祖母は、母及びYを相手方として、子の監護をすべき者を祖母と定める審判を申し立てた。原審は、子の福祉を全うするため、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護をすべき者を定める審判の申し立てをすることができると解すべきとして、子の監護者を、事実上子の監護をしてきた祖母と指定した。母とYとが許可抗告を申し立て、許可された。

決定の概要

民法766条1項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者その他必要な事項は、父母が協議をして定めるものとし、これを受けて同条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないが、父母以外の第三者に子の監護をすべき者を定める審判の申立てを許容する根拠となるものではない。「したがって、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である。」祖母の本件申立ては、不適法というべきであるとして、原決定を破棄し、原々決定を取り消した。(B)

親権・監護権・子の引渡し

母が、親権者である父に対し、子の親権者変更を本案とする審判前の保全処分として親権者の職務執行停止及び職務代行者の選任を申し立てた事案において、子の高校進学が阻害されるとしてこれを認容し、職務代行者に母を選任した事例

出典
家庭の法と裁判31号106頁
事案の概要

父と母とは、長男と未成年者である長女(2003年生)をもうけたが、2015年、子らの親権者をいずれも父と定めて協議離婚した。父は、父方祖母と同居して子らを養育していた。長女は、中学2年時に不登校となり、2018年2月には母方に行き、以後母方で養育されているが、中学3年からは登校を再開した。母宅は1LDKで、その2017年の給与収入は約375万円である。長女は高校進学を予定しており、受験が間近に迫っているにもかかわらず、父は、自らが親権者であるとして自らが三者面談に出席することにこだわり、母の出席を拒否している。長女は、家庭裁判所調査官の面接調査の際、父が祖母らを怒鳴るなどしていたことが嫌で、投げやりな気持ちになって不登校となったこと、父が自分の気持ちを理解せずに登校を求めるのが辛く、父から出て行けと言われたことをきっかけとして母宅に行ったこと、当初は父宅に戻る気持ちもあったが、母宅での生活が快適で、このまま母宅で暮らしたいし、進路についても母と相談して決めたい、よって、親権者を母に変更してほしいとを述べた。母は、父に対し、長女の親権者変更を本案として、審判前の保全処分(親権者の職務執行停止、職務代行者の選任)を申し立てた。

決定の概要

母は経済的に安定しており、長女の生活も安定しているのであって、その監護状況に問題はみられない。家庭裁判所調査官の面接調査をみても、現在15歳である長女は、真意から申立人宅での生活を希望しており、この希望は十分に尊重されるべきである。よって、本案申立認容の蓋然性がある。また、長女の高校受験は間近に迫っているが、父は母が三者面談に出席することを拒否しており、長女が父宅に戻ってこないとその県立高校受験の手続には協力しない意向を示している。長女の利益のためには、長女が希望する県立高校の受験を認める必要があるところ、現状のままでは、そのような受験をすることができないおそれがあり、保全の必要性もある。本案審判が効力を生ずるまでの間、父の長女に対する親権者としての職務の執行を停止し、その職務代行者に母を選任した。(B)

親権・監護権・子の引渡し

三人の子のうち、長女の監護者を父、二女・三女の監護者を母と指定し、長女の引渡しを求める母の申立て及び二女・三女の引渡しを求める父の申立てを却下した事例

出典
家庭の法と裁判30号63頁
事案の概要

夫婦は2008年に婚姻し、長女(2008年生)、二女(2011年生)、三女(2014年生)をもうけた。母の異性関係をめぐり夫婦関係は悪化し、2018年3月、母が三人の子を連れて別居した。しかし、その翌日、長女は自ら父宅に戻り、以降、父及び父方祖父母に監護されている。別居前の主たる監護者は母であった。

父は、母に対して、三人の子の監護者を父と指定するとともに、母の養育下にある二女及び三女の引渡しを求めた。他方、母は、父に対して、子らの監護者を母と指定するとともに、長女の引渡しを求めた。

原審(長野家裁飯田支部)は、長女の意向及び姉妹分離の解消の利益を重視し、三人の子の監護者を父と定め、二女及び三女を父に引き渡すよう母に命じるとともに、母の申立てを却下した。母が抗告した。

決定の概要

長女については、母との同居を拒否する意向を一定程度尊重すべきで、父の監護も格別問題視すべき状況にあると評価することはできないとして、父を監護者と指定した。

二女及び三女については、母の監護状況に特段の問題はなく、また、母と生活することに何ら拒否感を有しておらず、母との関係性は良好で健やかに成長しており、「従前ないし現在の監護環境を維持することが最も子の福祉に合致するものと認められるから、抗告人(注:母)を監護者と定めるのが相当である。」とした。そのうえで、姉妹分離の解消の利益については、「一般的に、低年齢の姉妹を同一の監護者の下で養育した方が望ましいとはいい得るものの、これは、監護者を定める上での一考慮要素にすぎないものであって、父母のいずれを監護者と定めるのが子の福祉に合致するのかについては、個々の未成年者ごとに個別具体的に検討すべき事柄である。」とし、本件においては、父母が比較的近い距離に居住しており、姉妹間の交流も相当程度頻繁に行われていることから、「監護親が異なることによる弊害が大きいとはいえない。」として、母を二女及び三女の監護者と指定するとともに、引渡しを求める父母双方の申立てを却下した。(KI)

ハーグ実施法

ハーグ条約実施法上の子の返還申立事件で成立した家事調停において定めた、子を返還する旨の条項を、同法117条1項を類推適用して変更することができるとした事例

出典
最高裁判所民事判例集74巻3号737頁、家庭の法と裁判29号49頁、判例タイムズ1476号56頁、判例時報2457号5頁
事案の概要

日本人母とロシア人父は婚姻して子をもうけ、2007年以降ロシアに住んでいた。2016年、当時9歳の子と母が来日し、父は、東京家裁に同年11月ハーグ条約実施法上の子の返還申立てをした。家事調停に付され、2017年1月11日、翌2月12日限り子をロシアに返還する旨の合意等を含む調停が成立した。しかし、子は、同月10日、下校途中教会に、ロシアに行きたくないと言って保護を求め、以後日本で生活している。父は、同年2月、間接強制の申立てをし、家裁は、母に対し1日当たり1万円支払うよう命令した。父は、その後代替執行等を申立て、次いで2018年2月には札幌地裁に人身保護請求をし、そのなかで同年7月30日裁判上の和解が成立(子がロシアの第9学年修了まで試験を受ける、父は代替執行事件に基づく解放実施の申立てをしないが、子が正当な理由なく試験を受けなかったときはこの限りでない等)した。

母は、東京家裁に、子がロシアへの帰国を拒否し、日本での生活を強く望んでいるから事情の変更があり、調停における子の返還合意の維持は不当であるとして、ハーグ条約実施法117条に基づき、本件調停を取り消して不成立にすることを求めた。

東京家裁は、2019年1月、申立てを却下した(調停合意も確定判決と同一の効力を有するから事情変更により調停条項変更を認める余地がある、子の意思は、返還事件及び調停において十分に考慮されるべきであり、当時、子は日本に住みたいと言っていたから、現在子が返還を拒否していることをもって子の返還義務が履行不能とか、返還債務が消滅したとして事情変更があったとはいえない)。東京高裁は、同年5月、抗告棄却した(明文がないので調停に実施法117条を適用も類推適用もできない)。母が許可抗告を申し立てた。

決定の概要

子の返還を命ずる終局決定が確定した場合、子の返還は迅速に行われるべきであるが、子が返還される前に事情の変更により返還決定を維持することが子の利益の観点から不当となることがあり得る。そのようなとき、返還決定が子に対して重大な影響を与えることになるから、ハーグ条約実施法117条1項の規定は、返還決定を変更することができることとしたものと解される。子の返還条項は確定した子の返還を命ずる終局決定と同一の効力を有する。また、子を返還する旨の調停が成立した場合も、事情の変更により子の返還条項を維持することが子の利益の観点から不当となることがあり得る。そのようなときに子の返還条項を変更する必要があることは、返還決定が確定した場合と同様である。「裁判所は、子の返還申立て事件に係る家事調停において、子を返還する旨の調停が成立した後に、事情の変更により子の返還条項を維持することを不当と認めるに至った場合は、実施法117条1項の規定を類推適用して、当事者の申立てにより、子の返還条項を変更することができると解するのが相当である。」として破棄差戻した。(I)