福岡高裁2019(令1)年10月29日決定

親権・監護権・子の引渡し

妻から子らを監護中の夫に対して監護者指定及び子の引渡しを申し立て、いずれも却下された事例

出典
家庭の法と裁判29号87頁、判例時報2450・2451合併号9頁
事案の概要

夫婦は2009年に婚姻し、2018年、夫が子ら(別居時小学年および年長児)を連れて実家に戻り別居した。同居中の主たる監護者は妻であったが、夫の求職中は夫が監護することが多くなり、妻が精神的に不安定になってからよりその傾向が強くなった。別居後、妻は県外の自己の実家に転居した。妻から監護者指定と子の引渡しを求める審判を申し立てた。

別居後、子らは、実家において、父とその父母及び妹と生活している。別居後の面会交流はおおむね月1回の頻度で実施されてきた。

原審(福岡家裁大牟田支部)は、父の監護に問題はないが、調査の結果、子ら、とくに長女が母と暮らしたいと発言し、母により強い好意や精神的結びつきを示しているとして、監護者を母と指定し子の引渡しを父に命じた。父が抗告した。

決定の概要

「現在は、相手方(注:母)との宿泊付きの面会交流も安定的に実施されている状況にある。就学後の子らについて監護者を定めるに当たっては、従前からの安定した監護環境ないし生活環境を維持することによる利益を十分考慮する必要があり、乳幼児期の主たる監護者であった相手方との親和性を直ちに優先すべきとまではいえない。さらに、長女は、相手方との面会交流時にはEで相手方と暮らしたいと繰り返し発言しているが、担任教諭に対してはZ小学校や友人と離別することへの強い不安を訴えているのであって、相手方への上記発言が長女の相手方への思慕を示す表現であるとしても、本件監護者指定における位置付けについては慎重に評価・判断する必要がある・・・以上の事情を考慮すれば、子らにとっては、現状の生活環境を維持した上で、相手方との面会交流の充実を図ることが最もその利益に適うというべきであるから、子らの転居・転校を伴う相手方への監護者指定と子らの引渡しは相当ではない。」として却下した。(S)