大阪高裁2019(令1)年10月16日決定 new!

ハーグ実施法

父がハーグ条約実施法に基づき子をスリランカに返還するよう求めた事案において、子の常居所地国はスリランカではないとして、子の返還申立てを却下した原決定は相当であるとして抗告を棄却した事例

出典
判例時報 2480号21頁,家庭の法と裁判 32号62頁
事案の概要

父と母(ともに元スリランカ国籍)は、婚姻して2002年以降日本で生活し、この間、長女及び子(2012年生)をもうけた。2017年には、一家4人で帰化した。同年7月から2019年4月までの間、一家はスリランカと日本との間を多数回往来し、子は、2017年9月から2019年4月までの間は、概ねスリランカに居住して同国の学校に通学し、その長期休暇中に日本に帰国して日本の小学校に通った。2018年8月頃から父母は国内で別居し、母は父に対し、子らの監護者指定等の調停等を家裁に申し立てた。2019年4月、母は、子とともにシェルターに入り、子を留置した。父はスリランカに渡航し、同年6月、母に対し、母による日本での子の留置により父の子に対する監護の権利を侵害されたと主張して、ハーグ条約実施法に基づき、子をその常居所地国(法2条5号)であるスリランカに返還するよう申し立てた。原審は、子の常居所地国は日本であり、スリランカではないとして本件申立てを却下した。父が即時抗告をした。

決定の概要

常居所を認定するにあたっては、居住年数,居住目的,居住状況等を総合的に勘案して認定すべきである。「特に子が低年齢である場合には,子の常居所の獲得については,以前の常居所を放棄し新たな居所に定住するとの両親の共通の意思を重視すべきである。」とし、子を日本において日本人として養育していくことが父母の共通の監護方針であったことは明らかで、子は、この監護方針に沿って家族とともに帰化した上、約5年間にわたって日本において日本人として生活してきたこと、父が2017年9月に子らとスリランカに渡航するに当たっても、自宅や住民票及び父の仕事は日本に残されたままであったこと、母は、当該渡航は夫婦関係が改善するまでの一時的なものと理解していたことなどに照らせば、「日本における常居所を放棄し,スリランカに定住するという抗告人(父)と相手方の共通の意思は形成されていないものというべきである。」また,子は,2017年7月にスリランカに渡航し,同年9月から現地の学校に通学していたものの,同校の長期休暇の都度、日本に帰国して日本の自宅で生活したり、日本の小学校に通学していた上、出生以来、5年余の間、日本人として日本語を母国語として日本の生活風習の中で養育されてきたことなどからすれば、留置がされた時点において,子の社会的結び付きも,スリランカよりも日本の方が強かったということができるし,父と母との間には、子について、監護者指定等の裁判も我が国の家庭裁判所に係属していた。そうすると、子の常居所地国は日本であり,スリランカであるとは認められない。したがって、原決定は相当であるとした。(B)