東京高裁2020(令2)年6月12日決定 new!

ハーグ実施法

母が父に対し、ハーグ条約実施法に基づく子の返還を求めた事案において、子の常居所地国を米国とした上で、同法28条1項4号(重大な危険)の返還拒否事由があると認められないことから、子の返還を命じた原決定を相当とし、父の抗告を棄却した事例

出典
家庭の法と裁判32号52頁
事案の概要

父母は、婚姻して日本で生活し、その後いずれも帰化して日本国籍となった。2013年3月に、米国における主に短期の商用を目的とするB1ビザを取得した。2014年に日本で子(日本国籍)をもうけ、日本で生活していたが、2017年7月に子を連れて渡米し(本件渡米)、同年12月には、母を代表者とする法人を設立した(本件法人)。本件法人は、2018年9月にレストランの事業譲渡を受け、同年11月に同レストランのフランチャイズ契約を締結した。父母は、投資等の事業を進めると同時に、米国での事業に必要なE2ビザの取得手続を進めていた。2019年2月に父母は子を連れて来日し(2月来日)、同月、父母の出生地である海外の地域(A)に里帰りした。同年4月18日、父は母に告げることなく、子を連れてAから日本に渡航した(本件来日)。現在、父は、日本で稼働しており、子(5歳)は日本で保育園に通っている。母は、201912月、東京家裁に対し、子を米国に返還するよう求める本件申立てをした。

原審は、子の常居所地国の認定につき、子が幼い場合には、当該居所の定住に向けた両親の意図を考慮して判断するのが相当とし、本件渡米は父母が米国で事業を行うことを具体的に計画・実施したものであること、事業実現に向けて行動し、E2ビザの取得手続を進めてきたこと等に照らすと、本件渡米は、米国での投資等の事業を成功させるまでの相当長期間にわたって居住する目的で行われたものというべきとした。また、本件渡米から2月来日までの約1年7か月の間、子は、米国において、健康保険に加入し、幼稚園に通い、英語を使用して生活しており、子は、相当長期間、米国で安定的に生活していたと認められるから、子の常居所地国は米国であるとした。その上で、父母及び子には米国での在留資格がなく、子を米国で監護することが困難なので、子を返還することにより子の心身に害悪を及ぼしその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとの主張に対し、父母も子もビザ免除プログラム(ESTAの申請)により適法に米国に入国又は滞在することが可能であること等に照らすと、ハーグ条約実施法28条1項4号の「重大な危険」を生じさせることにはならないとし、母による子の返還の申立てを認容した。これに対して、父が即時抗告をした。

決定の概要

原審の認定判断をほぼ全面的に是認し、「少なくとも本件法人がレストランの事業譲渡を受けてその経営を開始した後は、米国に相当長期に滞在する意図であったことが認められ、このような両親の意図に基づき」、子は、「本件渡米から2月来日までの約1年7か月の相当長期間米国に滞在し、その間、住居や幼稚園等、安定した生活環境の下で養育されてきたことを考慮すると、本件子の常居所地は米国であったことが明らかである。」とし、「重大な危険」も認められないとして、父の抗告を棄却した。(KI)