親権・監護権

No.12 new

母が子の引渡しを命ずる債務名義に基づき間接強制を求めた事案において、債務者である父に不履行があったとはいえず、不履行のおそれも見いだせないとして、原決定を取り消し、母による申立てを却下した事例

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大阪高裁2021(令3)年8月4日決定
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家庭の法と裁判47号72頁
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事案の概要

 父母は2013年に婚姻し、2015年に子をもうけたが、その後不仲となった。2020年2月、父は子を連れて実家に帰り、以後、両親とともに子を監護養育している。母は、翌3月、子の監護者を母と定めるほか、子の引渡しを父に命じる旨の審判を申し立て、同年8月、母の申立てをいずれも認容する審判がなされた。父はこれを不服として即時抗告したが、同年12月、抗告は棄却され、審判が確定した。

 母は債務名義に基づき、執行官による子の引渡しを実施させる旨の強制執行を申し立て、実施決定を得て、執行官に引渡実施を申し立てた。2021年1月、父の実家において、執行官2名、母、母の代理人、父及び執行補助者の立ち会いのもと、子(当時6歳)の引渡しの直接強制が実施されることとなり、担当執行官は執行に着手した。子は、母の家に戻ることや母と補助者による説得を拒否し、母のもとに行くよう父が促してみても、母に対する子の拒否的な構えは変わらなかった。担当執行官は手続き続行を断念し執行不能となった。子は、引き続き父のもとに残った。

 翌2月、母は債務名義に基づき、1日当たり3万円の間接強制金を支払うよう父に命ずる旨申し立てた。この間、母子交流が試みられたが、子が強く拒否した。原審(和歌山家裁)は、同年6月、父に対し、申立てと同旨の間接強制を命ずる旨の決定をした。これを不服として、父が執行抗告を申し立てた。

決定の概要

 本件直接強制に際し、父が、母による子の連れ出しを妨害せずに受忍し、これに支障がないように必要な協力を尽くしており、本件直接強制は、債務者たる父の意思では履行できない状態に至ったというべきであるから、父に引渡債務の不履行があったとは評価できないとし、その後の経過を見ても、引渡債務を履行しようとする父の態度は基本的に一貫していると評価できるから、不履行のおそれを見出すこともできないとした。したがって、発令要件を充たさないため、原決定を取り消し、本件申立てを却下するのが相当であるとした。そして、子が不登校である状況に鑑み、別途、子の引渡し等に関する家事調停を申立て、家裁の関与の下で調整を図ることが、今後の子の福祉に配慮する上で相当と考えられると付言した。(KI)

No.11

子らの監護者を母と指定し父に対し子らの引渡しを命ずる審判に基づき母が間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てをしたところ、本申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断に違法があるとして原決定を破棄し、1日につき2万円の割合による金員を母に支払うよう命ずる間接強制決定をした原々決定が正当であるとした事例

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最高裁2022(令4)年11月30日決定
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家庭の法と裁判44号42頁
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事案の概要

 父と母との間には、長男(2013年生)と二男(2015年生)がいる。父は2020年8月、子らを連れて母と別居した。母の申立てにより、和歌山家裁は子らの監護者を母と指定し、父に対し子らの引渡しを命ずる審判をした。母は、子らの引渡しを受けるため2021年4月5日、父宅に赴き、二男の引渡しは受けたが、長男は強く拒絶したため、引渡しを受けることができなかった。父は、長男の引き渡しへの協力を求めた母に対し、引き渡しの具体的提案はできない旨回答した上で、長男と二男を面会させる提案をした。母はこれに応じたが、初回は長男の強い拒否を理由に実施できず、2回目は長男は母が来ることを知らされていなかったため、母の姿を見て泣いて抵抗し、父宅に帰ることを強く求めるなどして円滑な交流はできなかった。母は、2021年6月、間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てをした。原々審は父に対し、長男を母に引き渡すよう命ずるとともに、これを履行しないときは1日につき2万円の割合による金員を母に支払うよう命ずる決定をした。父が執行抗告をしたところ、原審は、長男が2回母に引き渡されることを明確に拒絶する意思を表示しており、この意思が長男の真意であると認められるので、母に子の引渡しを強制することは過酷な執行として許されず、母の申立ては権利の濫用にあたるとして、原決定を取り消し、間接強制の申立てを却下した。母が許可抗告をした。

決定の概要

 本決定は、最高裁2019年4月26日第三小法廷決定(集民261号247頁)を引用し、「家庭裁判所の審判により子の引渡しを命ぜられた者は、子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ、合理的に必要と考えられる行為を行って、子の引渡しを実現しなければならないものであり、このことは、子が引き渡されることを望まない場合であっても異ならない」として、子が拒絶する意思を表示していることが直ちに間接強制決定をすることを妨げる理由とはならないとした。その上で、子の引渡しの審判確定から約2か月の間に2回にわたり長男が母に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまる本件の事実関係の下では、母の申立てを権利の濫用とした原審の判断は法令の解釈適用を誤った違法があり、原々審の判断が正当であるとした。(KO)

No.10

子の引渡しの間接強制を求めた事案において、権利の濫用に当たるとして申立てを却下した原決定を相当とした事例

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名古屋高裁金沢支部2022(令4)年3月31日決定
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家庭の法と裁判44号51頁
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事案の概要

 母の申立てに基づき、長女と二女(2013年生)の監護者を母と定め、父に対し二女を母に引き渡すよう命ずる審判がなされ(本件審判)、父が即時抗告等をしたが、最終的に2021年11月、特別抗告棄却となって本件審判等が確定した。父は、同年9月、2回にわたり母と二女を面会させて引渡しを試みたが、奏功しなかったため、母が本件間接強制を申立てた。同年11月、母の提案により、父の代理人が二女を母宅に連れて行き、父母双方の代理人立会いの下で母及び長女と面談させ、二女が母宅に留まることを希望すればそれがかなう状況を作ったものの、最終的に二女が父宅に帰ると述べ、引渡しは奏功しなかった。同年12月、二女は恐怖症性不安障害と診断された。二女は、単独で母宅に行くことを望んでいない。

 原審(富山家裁)は、父が、二女の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ、引渡しを実現するための合理的に必要と考えられる行為を行っているから、その債務の履行の提供を行っているといえるとし、二女に一定の心理的負荷がかかっているから、これ以上に父が行うべき行為を具体的に想定することは困難であり、このような事情の下での間接強制は過酷な執行として許されず、本件申立ては権利の濫用に当たるとした。これを不服として母が執行抗告をした。

決定の概要

 父(債務者)は、本件審判確定後、義務の履行をしようと最大限努力をしたが、功を奏せず、これ以上引渡しを進めようとすると二女の福祉を害する結果となることから断念したものであり、最高裁2019年4月26日第三小法廷決定(集民261号247頁)にいう、未成年者の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ同人の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる行為を具体的に想定することが困難な状況にあるといえ、権利の濫用に当たるとして、本件抗告を棄却した。(KI)

※間接強制の申立てが権利濫用に当たるか否かが争われた事案として、No.11の事例(最高裁2022年11月30日決定)を参照。

No.10

離婚後に、親権者である父が子らの監護を委託した母に対してした、面会交流不実施を理由とする子らの引渡し申立てについて、父の申立てを認容した原審判が取り消され父の申立てが却下された事例

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東京高裁2021(令3)年5月13日決定
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家庭の法と裁判41号83頁
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事案の概要

 父と母の間には、長女(2006年生)と二女(2009年生)がいる。父母は2016年10月、子らの親権者を父と定め協議離婚した。以後、父は子らと同居していたが、同年11月、父が宿泊を伴う海外出張で不在中に、様子を見に行った母が子らを母の実家に連れて行き、それ以降子らは母及び母の父母と共に生活している。父は面会交流などの調停を申し立て、2017年10月、面会交流を月1回ないし2回程度、年間10回以上の宿泊等を実施することを前提として、当面、母に子らの監護を委ねる旨の調停が成立した。2018年4月から長女が中高一貫の中学に進学し、二女も中学受験をし、2人とも通塾をするほか学校行事が直前に決まるなどの事情で、面会交流の日程調整等が円滑に進まず、父母の葛藤が続いた。父母が高葛藤のため、子らが父と面会交流の日程調整をするようになったが、そのことが子らの負担となっていた。父は、面会交流の調停条項が守られていないとして、2019年1月に子らの監護者指定の申立てをし、父が監護権者になっても子らが転校することがないようにと、子らから嫌だと言われたのに、母の実家近くに転居した。面会交流は同年6月以降実施されなくなり、同年7月頃からは、子らは父からの電話やLINEに応答しなくなった。父は同年12月、本件申立てをした。子らは家庭裁判所調査官に対し、母に対する親和性を示す一方で、父が子らの意見を聞かないなど、父の言動に不満がある旨述べた。原審は、調停条項の面会交流が実施されないことから、父自身が監護するために子らの引渡しを求めているのであり、子らの福祉に反することが明らかな場合など特段の事情がない限り、母は、子らの引渡しを拒むことができないとし、父の申立てを認めた。

決定の概要

 面会交流が行われなくなった主な原因は、父が子らの反対を押し切って子らが生活している母の実家近くに転居したことであるため、面会交流不実施の責任が主に母にあるとは認められないから、父は、母への子らの監護の委託を解除することはできないとして、母の監護状況には格別問題は認められず、子らも母に対して親和性を示すものの、父に対しては嫌悪感を示し同居したくないと述べるなど、子らが父の監護下に入るのは困難な状況であるから、子らの福祉の観点から子らを父に引き渡すのは相当でないとして、父の申立てを却下した。(KO)

No.9

父が母に対し、子の監護者を父と定めるとともに子の引渡しを求めた事案において、母の監護状況及び面会交流の改善という新たな事情を考慮し、従前の主たる監護者である母から父に変更するまでの必要性はないとして、父の申立てを認容した原審判を取り消し、子の監護者を母と定め、父の申立てを却下した事例

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東京高裁2021(令3)年8月6日決定
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家庭の法と裁判41号66頁
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事案の概要

 父と母は、2014年に婚姻し、翌年子をもうけた。母は出産を機に退職し、母方祖父母の協力を得つつ子を監護した。2018年11月、母は、子を保育園に入園させ、翌月就労した。2019年1月、母は子を連れて実家に帰り、父と別居した。翌月、父は、子の監護者の指定及び子の引渡しを求める審判等を申し立てた。同年6月には、面会交流の在り方を検討するために、調停に付された。2020年6月、母は適応障害等で約2か月間入院したが、その間、子は、児童相談所に一時保護された。

 原審(東京家裁)は、母の心身の状況や経済面から監護態勢が不安定になるおそれがあり、また、適切な面会交流の実施にあたって課題があり、これらの改善が見込めないことから、長期的に安定した環境で子を養育し、十分な交流の機会を継続的に確保することはできないなどとして、監護態勢等を整えている父の申立てを認めた。母が即時抗告し、母方の監護態勢の改善等を主張した。

決定の概要

 従前の母の監護に子の福祉を害するような問題があったと認められないし、一時保護が解除された後、子は母の監護の下で健康かつ規則正しい生活を送っている。改めて家裁調査官の調査を経た上で、母の心身の状況は子の監護に専念することが可能な程度にまで回復しており、子の特性を理解した母方祖父母の監護補助が得られていること、面会交流についても、当初の消極的な姿勢を改め、2か月に1回の頻度で第三者の保育者立会いの下で実施されていることから、母においては、心身の面での不安や課題も残されてはいるが、「子の福祉の観点からは、未成年者の監護環境を、別居前の主たる監護者であり、別居後も継続して未成年者を監護している抗告人(注:母)の下から、監護実績の乏しい相手方(注:父)の下に変更するまでの必要性は認められない」として、原審判を取り消し、子の監護者を母と定めるとともに、子の引渡しを求める父の申立ては却下するのが相当であるとした。(KI)

No.8

無断で子らを連れ去り、日本国外に出国した父に対し、母が子らの監護者指定と引渡しを申し立てた事案において、日本法を準拠法とした上で、別居までの主たる監護者は母であること、父は、単独監護を強行し、無断で子らを海外渡航させ、母子の交流をほぼ全面的に断ち、従前と全く異なる環境において監護しようとしていることなどから、父は監護者としての適格を欠くというべきであるとして、母の申立てを認容した事例

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東京家裁2021(令3)年5月31日審判
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家庭の法と裁判38号73頁
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事案の概要

 父(外国籍) と母(日本国籍)は、2008年に婚姻し、子C(2010年生)、子D(2011年生)、子E(2014年生)をもうけた。子らはいずれも日本国籍を有する。母は、子らの出産の都度、育児休業を取得し、育児休業終了後は、保育園に入園させ、母方祖母等の監護補助を得ながら子らの監護養育を担っていた。父は頻繁に海外出張をし、在宅していた期間も子らの監護養育への関与は限定的であった。また、父が母子を大声で怒鳴る言動が日常化していて、同居時に通学していた教育機関のカウンセラーに対して、子CとDは、父に対して恐怖感を抱く心情を示していた。父母は、2020年以降、自宅の金銭的負担をめぐる対立が深くなり、2021年1月、母が父に離婚と自宅からの退去を求めたところ、数日後、父は、下校中の子CとDを母に無断で連れ去り、母と別居し、住所を秘匿した。その一週間後、母は父に対し、子C、D、Eの監護者指定と子C、Dの引渡しの本案及び審判前の保全処分を申し立てた。父は、裁判所において面会交流実施に同意していたにもかかわらず、2021年2月、子らの旅券を紛失した旨の虚偽の届出をして、新たな旅券の交付を受け、その翌日、母に何ら相談もなく、子C、Dを伴って日本国外に出国した。出国後、母は一回子Cらとビデオ通話をしたが、子らはほぼ発言しなかった。以来、母子は何らの交流もできていない。日本での別居時、子ども家庭支援センターで2021年2月に行った面接において、子らは、母の監護に不満を示し、父との生活に不満を示さず、父との生活を希望する旨を述べた。

審判の概要

 申立時、子らの住所は日本にあったから、国際裁判管轄は日本の裁判所にある。準拠法は、通則法32条、38条1項ただし書により、子らと申立人である母の同一本国法である日本法となる。

 子Cらは別居直前まで父に恐怖感を感じており、このような子Cらの別居前の意向と相反する別居後の意向は、真意によるものか疑問を差し挟まざるを得ず、父の影響を強く受けて発言したことがうかがわれ、子Cらの述べた内容を重視するのは相当ともいえないとした上で、別居までの子らの主たる監護者は母であるところ、子らの年齢や発達段階を踏まえると、主たる監護者が継続して、きょうだいを分離することなく、子らを監護することが望ましいというべきである。そして、母は、継続的に安定して子らを監護できる環境を整えており、子らと母の関係に特段の問題があるとは認められない。一方、父は、別居前、子らの監護養育への関与は限定的であった上、別居に際し、子Cらの単独監護の開始を強行し、日本の家庭裁判所の手続中に、申立人に無断で子Cらを海外渡航させ、母と子Cらとの交流をほぼ全面的に断ち、従前と全く異なる生活環境において子Cらを監護しようとしており、監護者としての適格を欠くというべきである。以上の判断から母の本案申立てをすべて認容した。(B)

No.7

父が、子を連れて別居した母に対し子の仮の監護者の指定及び子の仮の引き渡しを求めて審判前の保全処分を申し立てた事案において、母による違法な連れ去りがあったとはいえないので本案認容の蓋然性が高いとはいえず、保全の必要性もないとして、認容した原審判を取り消し、申立てをいずれも却下した事例

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東京高裁2019(令1)年12月10日決定
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家庭の法と裁判37号59頁
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事案の概要

 父と母は、2012年に婚姻し、2014年に子をもうけた。父母の同居期間中、子の監護は主として母が担っていた。2018年に母は、父に暴力を振るい傷害を負わせて、逮捕勾留された。その勾留中に、母の弁護人弁護士と父との間で、今後の夫婦関係や子の養育等に関し協議の上決定することや、将来離婚する場合、子の親権者を父とすることを確認する等の条項を含む示談が成立し、母は釈放された。その約1か月後、母は父に無断で、子を連れて別居した。父は、審判前の保全処分として、子の仮の監護者の指定及び仮の引渡しを求めた。

 原審(さいたま家裁川越支部)は、母の行為は、前記示談条項の趣旨等に違反する違法な連れ去りであるところ、父が監護者としての適格性を欠くとまではいえない、母の監護養育には一部不適切な面があり、母の父に対する暴行の一部は子が近くにいる状況で行われたことからすると、親権者や監護者について父と指定する旨の合意をすること自体不合理とまでいえないなどとして被保全権利を認め、かつ、母による子の連れ去りという違法状態は直ちに是正されるべきであるなどとして保全の必要性も認めて、子の監護者を仮に父と指定するとともに、母に対し、子を仮に引き渡すことを命じた。母がこれを不服として即時抗告した。

決定の概要

 本件示談交渉は、母の身柄拘束期間中の短期間にとどまり、離婚時の親権者につき従前から協議を行っていたこともうかがわれないから、未成年者の利益等に配慮した十分な協議を経た上で合意されたとは認めがたい。前記示談条項が存在することが、直ちに母が子を連れて別居を開始したという行為を違法と評価すべき事情に当たるとはいえない。母が別居まで子の主たる監護を担っていたが、母の言動が子の心身に具体的な悪影響を及ぼしていたことまでは認められないし、関係機関の母に対する関与の経過等に照らしても、母が監護者としての適格性を欠くことが明らかとなっているとはいえない。適格性の判断に当たっては、従前の監護状況のほか、別居後の監護や子の状況等の事情の調査を踏まえた慎重な検討が必要であるが、原審判時までにこれらの調査が十分に行われたとはいえないから、父と母のいずれが監護者としてより適切であると判断することは困難である。現時点において、子の監護を父に委ねることが母の監護を継続するよりも相当であると認めることはできない。本件申立ての認容の蓋然性が高いということはできず、子の急迫の危険を防止するためという保全の必要性も認められない。本件申立てを認容した原審判は相当でないとして、これを取り消し、本件申立てをいずれも却下した。(B)

No.6

父による子の監護の開始には違法な点は認められず、母が父より子の監護者として適していると認めることもできないとして、母の監護者指定の申立てを却下した原審判を相当とした事例

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名古屋高裁2020(令2)年6月9日決定
出典
家庭の法と裁判37号50頁
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事案の概要

 父と母は、2008年に婚姻し、2013年に本件子をもうけた。母は、主たる監護者であったが、精神的に不安定で不穏当な言動を繰り返していた。2019年5月、口論のあげく母が刃物を持ち出したことから、父は離婚を覚悟し、母と話し合ったが決着がつかず、待機していた父方祖母が子を父の実家に連れ帰った。以後、父は、母と別居し、両親の援助を受けながら子を監護している。母は、同年8月、自分を子の監護者として指定することを求めて調停を申し立てたが、翌月、不成立となり、審判に移行した。

 原審(名古屋家裁一宮支部)は、父の監護状況に大きな問題はなく、子自身も現在の生活の継続を希望していること、父の単独監護の開始には、精神的に不安定な状況が続いていた母が刃物を持ち出したことを契機に、父が、母の精神状態に鑑みて、子の安全を確保するために子を連れて別居に至り、これは子の保護に必要な行為であったというべきで、父による子の監護の開始に違法な点は認められないこと、精神的に不安定な状況にある母に子の監護を委ねることが子の福祉に適うとは認められないし、母は依然精神的に不安定な状況にあるから、母が父より子の監護者として適していると認めることはできないなどとして、母の申立てを却下した。母は、これを不服として、即時抗告をした。

決定の概要

 原審の認定判断をすべて相当としたうえで、母の、未成年者の監護者指定の審判申立てがされたのであるから、裁判所は父と母のいずれを監護者とするのが子の利益に合致するかを審理判断すべきであり、母よりも父が相応しいと考えたときは、父が監護者指定の申立てをしていなくても父を監護者として指定する旨の審判をすべきであるのに、これをしなかったとの主張につき、かかる審判の申立てがされた場合に、常にその審判の主文において当事者のいずれが監護者になるべきかを指定することが要求されているわけではないとし、その余の母の主張をいずれも採用することができないとして、本件抗告を棄却した。(B)

No.5

父母以外の第三者は事実上子を監護してきた者であっても、子の監護に関する処分として子の監護者指定の審判申立てをすることができないとして、祖母からの監護者指定の申立てを不適法とした事例

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最高裁2021(令3)年3月29日決定(令和2年(許)第14号)
出典
裁判所ウェブサイト、裁時1765号3頁、民集75巻3号952頁、金法2194号87頁、判タ1500号80頁、家庭の法と裁判41号32頁
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事案の概要

 ※大阪高裁2020(令2)年1月16日決定(本サイトにて紹介済み)の許可抗告審

 母は前夫と、子の親権者を母と定めて離婚した。母と子の祖母とは一緒に子を監護していたことがあるが、2017年8月頃以後、祖母が単独で子を監護している。2018年3月、母はYと婚姻し、その際、Yは子と養子縁組をした。祖母は、母及びYを相手方として、子の監護をすべき者を祖母と定める審判を申し立てた。

 原審は、子の福祉を全うするため、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護をすべき者を定める審判の申し立てをすることができると解すべきとして、子の監護者を、事実上子の監護をしてきた祖母と指定した。母とYとが許可抗告を申し立て、許可された。

決定の概要

 民法766条1項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者その他必要な事項は、父母が協議をして定めるものとし、これを受けて同条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないが、父母以外の第三者に子の監護をすべき者を定める審判の申立てを許容する根拠となるものではない。「したがって、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当であ」り、祖母の本件申立ては不適法というべきであるとして、原決定を破棄し、原々審判を取り消した。(B)

No.4

母が、親権者である父に対し、子の親権者変更を本案とする審判前の保全処分として親権者の職務執行停止及び職務代行者の選任を申し立てた事案において、子の高校進学が阻害されるとしてこれを認容し、職務代行者に母を選任した事例

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水戸家裁土浦支部2019(平31)年1月18日審判
出典
家庭の法と裁判31号106頁
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事案の概要

 父と母とは、長男と未成年者である長女(2003年生)をもうけたが、2015年、子らの親権者をいずれも父と定めて協議離婚した。父は、父方祖母と同居して子らを養育していた。長女は、中学2年時に不登校となり、2018年2月には母方に行き、以後母方で養育されているが、中学3年からは登校を再開した。母宅は1LDKで、その2017年の給与収入は約375万円である。長女は高校進学を予定しており、受験が間近に迫っているにもかかわらず、父は、自らが親権者であるとして自らが三者面談に出席することにこだわり、母の出席を拒否している。長女は、家庭裁判所調査官の面接調査の際、父が祖母らを怒鳴るなどしていたことが嫌で、投げやりな気持ちになって不登校となったこと、父が自分の気持ちを理解せずに登校を求めるのが辛く、父から出て行けと言われたことをきっかけとして母宅に行ったこと、当初は父宅に戻る気持ちもあったが、母宅での生活が快適で、このまま母宅で暮らしたいし、進路についても母と相談して決めたい、よって、親権者を母に変更してほしいと述べた。 母は、父に対し、長女の親権者変更を本案として、審判前の保全処分(親権者の職務執行停止、職務代行者の選任)を申し立てた。

審判の概要

 母は経済的に安定しており、長女の生活も安定しているのであって、その監護状況に問題はみられない。家庭裁判所調査官の面接調査をみても、現在15歳である長女は、真意から申立人宅での生活を希望しており、この希望は十分に尊重されるべきである。よって、本案申立認容の蓋然性がある。また、長女の高校受験は間近に迫っているが、父は母が三者面談に出席することを拒否しており、長女が父宅に戻ってこないとその県立高校受験の手続には協力しない意向を示している。長女の利益のためには、長女が希望する県立高校の受験を認める必要があるところ、現状のままでは、そのような受験をすることができないおそれがあり、保全の必要性もある。本案審判が効力を生ずるまでの間、父の長女に対する親権者としての職務の執行を停止し、その職務代行者に母を選任した。(B)

No.3

未成年者の事実上の監護をしている祖母から父母に対し、未成年者の監護者を祖母と指定することを求めた事案で、これを認めた原審判を相当として維持した事例

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大阪高裁2020(令2)年1月16日決定
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家庭の法と裁判30号69頁、判タ1479号51頁
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事案の概要

 母は、実家にて、実母である祖母とともに未成年者を育てていたが、2010年2月に夫と、未成年者の親権者を母として離婚した。2017年、母は未成年者を実家に置いて男性と同居した。2018年、母は男性と婚姻し、併せて、母が代諾者となって未成年者と男性とは養子縁組した。また、母は、同年、祖母から未成年者を引き取るべく未成年者に係る人身保護請求をしたが、その手続き等の中で、未成年者は母に対し、養父と別れて、母と祖母の3人で生活したいと述べるなどした。成人男性を苦手とする未成年者は、養父を嫌悪し、これに同調する母にも反発して、身体症状が出るとともに、学校も休むようになり、適応障害等の疑いや、母の再婚に関連したストレスから不安等の身体症状があると診断された。母の上記請求は棄却され、上告棄却等により確定した。祖母は、同年、母に対し未成年者の監護者を祖母に指定する調停を申し立て(審判移行)、翌2019年、養父に対しても、同趣旨の審判を申し立てた。 原審は、未成年者(当時9歳)の福祉のためには、祖母を監護者として指定し、その安定した監護養育を継続させることが相当であると審判した。母と養父が抗告した。

決定の概要

 「子の福祉を全うするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護者指定の申立てをすることができるものと解するのが相当である。」として、事実上の監護をしている祖父母等の監護者指定の申立権を肯定し、そのうえで、「その判断に当たっては、子の福祉の観点を最も重視すべきである。」とし、「上記祖父母等を監護者と定めるためには、上記親権の行使に重大な制約を伴うこととなったとしても、子の福祉の観点からやむを得ないと認められる場合であること、具体的には、親権者の親権の行使が不適当であることなどにより、親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれが認められることなどを要すると解するのが相当である。」とした。本件では、未成年者は、養父に対して嫌悪感、不信感を抱き、養父を強く拒絶していること、母は、養父に追従し、未成年者と養父との家族関係の構築を急ぐあまり、未成年者の意向や心情に対する配慮を欠く行動を繰り返していること、母の言動が原因となって、未成年者は、精神的に不調を来たし、小学校にも通学することができない状況となったこと、未成年者は、本決定時10歳であり、母と養父との同居を拒否し、祖母と二人で生活することを望んでいることなどからすると、上記に該当し、未成年者の監護者を祖母と定めるのが相当であるとした。(I)

No.2

3人の子のうち、長女の監護者を父、二女・三女の監護者を母と指定し、長女の引渡しを求める母の申立て及び二女・三女の引渡しを求める父の申立てを却下した事例

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東京高裁2020(令2)年2月18日決定
出典
家庭の法と裁判30号63頁
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事案の概要

 夫婦は2008年に婚姻し、長女(2008年生)、二女(2011年生)、三女(2014年生)をもうけた。母の異性関係をめぐり夫婦関係は悪化し、2018年3月、母が3人の子を連れて別居した。しかし、その翌日、長女は自ら父宅に戻り、以降、父及び父方祖父母に監護されている。別居前の主たる監護者は母であった。 父は、母に対して、3人の子の監護者を父と指定するとともに、母の養育下にある二女及び三女の引渡しを求めた。他方、母は、父に対して、子らの監護者を母と指定するとともに、長女の引渡しを求めた。

 原審(長野家裁飯田支部)は、長女の意向及び姉妹分離の解消の利益を重視し、3人の子の監護者を父と定め、二女及び三女を父に引き渡すよう母に命じるとともに、母の申立てを却下した。母が抗告した。

決定の概要

 長女については、母との同居を拒否する意向を一定程度尊重すべきで、父の監護も格別問題視すべき状況にあると評価することはできないとして、父を監護者と指定した。二女及び三女については、母の監護状況に特段の問題はなく、また、母と生活することに何ら拒否感を有しておらず、母との関係性は良好で健やかに成長しており、「従前ないし現在の監護環境を維持することが最も子の福祉に合致するものと認められるから、抗告人(注:母)を監護者と定めるのが相当である。」とした。そのうえで、姉妹分離の解消の利益については、「一般的に、低年齢の姉妹を同一の監護者の下で養育した方が望ましいとはいい得るものの、これは、監護者を定める上での一考慮要素にすぎないものであって、父母のいずれを監護者と定めるのが子の福祉に合致するのかについては、個々の未成年者ごとに個別具体的に検討すべき事柄である。」とし、本件においては、父母が比較的近い距離に居住しており、姉妹間の交流も相当程度頻繁に行われていることから、「監護親が異なることによる弊害が大きいとはいえない。」として、長女の監護者を父、二女及び三女の監護者を母と定めるとともに、引渡しを求める父母双方の申立てを却下した。(KI)

No.1

双子の兄妹のうち、長男の監護者を父と指定したうえ、長男の引渡しを求める母の申立てを却下した事例

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大阪高裁2019(令1)年6月21日決定
出典
家庭の法の裁判29号112頁、判タ1478号94頁
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事案の概要

 父母は2004年に婚姻し、2017年7月、母が子ら(別居時10歳の双子の兄妹)を連れて別居した。別居前の主たる監護者は母であり、父による監護は主に休日に限られていた。2018年1月の夜、長男が自ら父宅に戻り、以降、父が祖母(77歳)の補助を受けて長男を監護している。母が子らの監護者の指定及び長男の引渡しを求める審判を申し立てた。別居後の面会交流は、2018年5月以降、月2回の頻度で実施されてきた。長女と父との面会交流は比較的円滑に実施されているが、長男は母との面会交流には消極的である。

 原審(大阪家裁)は、長男が自ら父宅に転居したのは、長男と父との面会交流が希望どおりに実施されなかった不満等によるもので、今後の生活について熟慮したうえでの行動とはいえないこと、父の監護経験が乏しいこと、長男が父との生活を希望している言動等を踏まえても、父による監護が母による監護と比べてより未成年者の福祉に資するともいえないこと等から、子らの監護者を母と指定し、長男の引渡しを父に命じた。父が抗告した。

決定の概要

 「抗告人(注:父)による未成年者(注:長男)の監護状況にも特段の問題はなく、監護補助者である父方祖母は、77歳と高齢ではあるが健康であって、今後も監護補助を続けられる見込みである・・・また、未成年者は、本件別居前から抗告人との父子関係が良好であり、抗告人との同居の継続を強く求めている。他方、未成年者は、相手方(注:母)に対する不信感等もあり、相手方との同居を拒んでいる・・・また、抗告人宅と相手方宅は、いずれも未成年者らが通う小学校の校区内にあり、相互の距離も近く、未成年者と長女は自由に交流することができる・・・以上の未成年者の従前の監護状況、今後の監護態勢、未成年者と当事者双方との心理的結び付き、未成年者の心情等を総合すると、抗告人において未成年者を監護する方が、未成年者の心理的安定が保たれ、その健全な成長に資し、未成年者の福祉に適うものと認められる。また、未成年者は、相手方に引き取られることを強く拒んでおり、従前と同様、自ら抗告人宅に戻る可能性が高いから・・・抗告人を未成年者の監護者と指定するのが相当である」とし、長男の引渡しを求める母の申立てを却下した。(KI)