養育費・婚姻費用

No.17 new

婚姻費用分担審判において、前提問題となっていた民法772条による嫡出の推定を受けない子との間の父子関係の存否を審理判断することなく、父の子に対する扶養義務を認めた原審の判断が違法であるとされた事例

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最高裁第二小法廷2023(令5)年5月17日決定
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家庭の法と裁判47号63頁
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事案の概要

 母(原々審申立人・原審抗告人・相手方)と父(原々審相手方・原審相手方・抗告人)は2014年に婚姻し、婚姻の成立の日から200日以内に子を出産して嫡出子出生届を出した。2019年、父母が別居し、母が子を監護養育するようになった。子との親子関係に疑問を抱いた父がDNA鑑定を実施したところ、子との間に生物学上の父子関係が存在しないと判明し、これを母にも伝えた。その後、母は父に対し、婚姻費用分担金として毎月相当額の支払いを求めた。

 原々審(大阪家裁岸和田支部)は、父子関係が存在しないとした上、母による婚姻費用分担請求は信義則違反とし、母の申立てを却下した。

 原審(大阪高裁)は、母の生活費の分担請求に係る部分については信義則違反又は権利濫用に当たるとしたが、子の生活費の分担請求に係る部分については、父子関係はDNA鑑定から「直ちに否定されるものではなく、訴訟において他の諸事情も考慮して最終的に判断されるべきもの」であり、親子関係が不存在であることを確認する判決が確定するまでは、父は子に対する扶養義務を免れないとして、子に係る生活費の分担を命じた。

決定の概要

 推定を受けない嫡出子に対して、嫡出否認の訴えを行わずに父子関係の存否を争うことが認められており、訴訟において、財産上の紛争に関する先決問題として、父子関係の存否を確定することを要する場合、裁判所がこれについて審理判断することは妨げられず、このことは婚姻費用分担審判の手続においても、父母が分担すべき婚姻費用に、推定を受けない嫡出子の監護に要する費用が含まれるか否かを判断する前提として、父子関係に基づく扶養義務の存否の確定を要する場合であっても異なるものではなく、裁判所が推定を受けない嫡出子について父子関係の存否を審理判断することは妨げられないとした。原審は、本件父子関係の存否は訴訟において最終的に判断されるべきものであることを理由に、父子関係の存否について審理判断することなく、父子関係の存否が最終的に確定するまでは扶養義務を免れないとしたが、この判断には法令の解釈適用を誤った違法があるから、原決定は破棄を免れず、本件では、原決定後に本件父子関係が存在しないことを確認する旨の判決が確定したから、原々審判は正当であり、これに対する抗告を棄却すべきであるとした。(SH)

No.16

母の再婚した夫と同居し事実上扶養されている子の養育費減額審判において、母の夫の職業が精神科開業医であることから算定表の上限の営業所得を得ていると推認し、その一部を母の総収入に加算して養育費を算定した事例

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宇都宮家裁2022(令和4)年5月13日審判
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家庭の法と裁判46号88頁
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事案の概要

 申立人(父)と相手方(母)とは2018年に子(2013年生)の親権者を母と定めて離婚し、その際、父が母に対し子の養育費として月15万円を支払う旨合意した。母は2020年に精神科医と再婚した。母の再婚した夫(以下、「母の夫」という。)は、子と養子縁組していないが、子と同居し事実上扶養している。父は2021年に養育費減額調停を申し立て、調停に代わる審判がされたが、母が異議を申し立てて審判手続に移行した。母が提出した母の夫の2020年の市県民税税所得証明書によれば営業等所得は約480万円のマイナスであった。母は、母の夫の収入資料をそれ以外提出しない意思を示した。

審判の概要

 父の2021年の総収入を1080万円、権利者である母の2021年の給与収入相当を約260万円と認定した。母の夫の2020年の営業等所得が大幅にマイナスとなっているのは、同年にクリニックを開業したことで一時的に収入が低下したものであり、母が2021年以降の収入資料の提出を拒否するため、母の夫が精神科の開業医であることに鑑み、その総収入は少なくとも算定表の上限である1567万円の営業所得があると推認するのが相当とした。母の夫は父と比べると相当に高額な収入を得ており、子を事実上扶養しているため事実上養子縁組している状態で、子に生活費等の給付が十分にされていると考えられることから、母の夫が扶養義務を負うとした場合の子の生活費を参考にした額である208万円程度を、母の2021年の総収入に加算するのが相当であるとした。そのうえで標準算定表に当てはめ、父の支払うべき養育費の額を月9万円に減額変更した。(KO)

No.15

同居したことがない夫婦間における婚姻費用分担申立事件において妻の申立てを却下した原審の判断を取り消し、夫に対し支払いを命じた事例

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東京高裁2022(令4)年10月13日決定
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家庭の法と裁判45号47頁
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事案の概要

 夫婦は、2020年8月に婚姻届出をしたが、その後は毎週末に会う程度で同居しないままの状態でいた。同年10月に、妻は、夫との夫婦観、人生観に基本的な相違があることを理由として、同居を拒否した。それ以降、二人は別居を継続し会わなくなった。妻は2021年4月に婚姻費用分担調停、夫は同年7月に夫婦関係調整調停を申立てたが、いずれも不成立となり、婚姻費用分担調停は本件審判手続に移行した。

 原審(横浜家裁)は、婚姻費用分担義務(民法760条)は、同居、協力及び扶助義務(民法752条)とあいまって自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務となるとした上、本件の事実関係の下では、当事者間で婚姻が成立しているとはいえ、通常の夫婦同居生活開始後の事案のような生活保持義務を認めるべき事情にはない。妻は婚姻前と同様に自己の生活費を稼ぐことは可能であって、具体的な扶養の必要性は認められないから、夫に婚姻費用分担金の支払をさせる具体的な必要は認められないとして、妻の婚姻費用分担申立てを却下した。妻は不服とし、即時抗告した。

決定の概要

 婚姻費用分担義務(民法760条)は、婚姻という法律関係から生じるものであって、夫婦の同居や協力関係の存在という事実状態から生じるものではないから婚姻の届出後同居することもないままに婚姻を継続し、その後、婚姻関係の破綻と評価されるような事実状態に至っても、法律上の扶助義務が消滅するということはできないが、その破綻について専ら責任がある配偶者が婚姻費用の分担を求めることは信義則違反となり、その責任の程度に応じて、婚姻費用の分担請求が認められない場合や、婚姻費用の分担額が減額される場合があるとした上、本件において婚姻破綻の原因を妻のみに求めることはできないとした。(SH)

No.14

高額所得者である夫に対する婚姻費用分担請求において、夫の収入が標準算定方式の上限を超過しているとして、原審判は同方式によらずに分担額を定めたが、これを同方式を採用した上で分担額を算出するなどして変更した事案

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大阪高裁2022(令4)年2月24日決定
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家庭の法と裁判43号69頁
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事案の概要

 夫婦は2013年に婚姻し、婚姻時、妻は夫の前妻の子(2006年生)と養子縁組した。なお、当該子は、広汎性発達障害のため知的障がいによる療育手帳の交付を受けている。そのほか、夫婦の間には、長男(2014年生)、二男(2015年生)、三男(2016年生)がいる。また、夫には、認知した子2人がおり、その母に養育費として月額約12万円を支払っている。

 夫は、医師であり、2017年にクリニックを開業した。妻は、別居に至るまでは夫の病院の従業員として働いていた。

 2020年1月、妻は、子ら4人を連れて別居した後、夫婦関係調整調停及び婚姻費用分担調停を申し立てたが、いずれも不成立となり、婚姻費用分担調停は本件審判手続に移行した。

 原審(大阪家裁)は、婚姻費用の分担は一般に、改定標準算定方式(令和元年度版)によるのが相当であるが、本件において、義務者である夫は、営収入約6000万円と高額であり、年収1567万円を上限とする同方式を利用することはできず、収入が同方式の上限額の4倍以上の収入であることから、職業費、特別経費及び貯蓄率に関する標準的な資料も見当たらず同方式の考え方を用いて算定することも困難とし、夫婦の同居時の生活水準、生活費支出状況、別居後の妻の家計収支及び生活状況等を踏まえて検討するとした。別居後の妻及び子の生活には90万円程度要すると推測されること、妻は少なくとも月額50万円から60万円程度の稼働能力を有していることを根拠として、婚姻費用分担額を月額85万円とするのが相当であるとした。

 これに対し、夫及び妻双方が即時抗告をした。

決定の概要

 夫の事業収入を年額約7481万と認定したうえで、改定標準算定方式(令和元年度版)の上限1567万円を大幅に超過していることを踏まえ、「夫婦分に相当する基礎収入を算定し、これを生活費指数で按分するという本件算定方式を維持した上で、高額所得者である原審相手方(注:夫)においては総収入から控除する税金や社会保険料、職業費及び特別経費について、原審相手方における事業収入の特殊性を踏まえた数値を用い、さらに一定の貯蓄分を控除して、同人の基礎収入を修正計算するのが相当である」とした。

 具体的には、実際の申告所得税を控除し、職業費、特別経費については家計調査年報の収入階級区分の近似値を採用し、それぞれ収入比13.35%、13.67%とした。貯蓄分については、税金を控除した収入の26%を採用し控除、基礎収入を約2105万とした。また、認知した子の養育費年額約146万円は、当該基礎収入額から控除し、約1959万円を修正基礎収入とした。

 妻については、4人の子らを独りで養育しており就労を求めるのは現実的ではないことから無収入、別居後の生活費は103万円程度要すると認定した。

 以上に認定した夫婦の収入、必要な生活費等を踏まえ、婚姻費用分担額を月額125万円と定めるのが相当であるとした。(KI)

No.13

公正証書に基づく養育費支払義務の減額を求める審判及び調停を本案とする強制執行停止を求める審判前保全処分の申立てを適法とした事例

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東京高裁2021(令3)年5月26日決定
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家庭の法と裁判43号82頁
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事案の概要

 父と母は、2013年、長男と二男の親権者を母と定め協議離婚をした。父母は離婚等公正証書(以下、「本件公正証書」という)において、父は、母に対し、長男及び二男一人当たり月額5万円の養育費を支払う旨合意し、また、事情の変更があったときは、協議の上、養育費の額を増減することができる旨も定めた。父は、上記養育費を支払っていたが、母に対し、2014年8月頃、子らの養育費の支払が困難になったとして、本件公正証書に基づく協議を申入れた。母がこれを拒否したため、養育費の減額の協議はできないまま、父が母に対し、子らの養育費一人当たり月額3万円に減額して支払いをした。母は、2021年3月9日及び同月23日、父に対して、本件公正証書に基づく子らの養育費について155万4000円の未払があるとして、強制執行手続へと移行する旨を通知した。父は、母に対して、本件公正証書に基づく養育費の減額の審判及び調停を本案として、本件公正証書に基づく強制執行の停止を求める審判前保全処分申立てをした。

 原審(東京家裁立川支部)は、父が、請求異議の訴えにおいて、本件公正証書のうち養育費を約した部分の執行力の排除を求めることができることを理由に、保全の必要性を欠くとして父の審判前保全処分申立てを却下したところ、これを不服として、父が抗告した。

決定の概要

 合意の成立後に生じた事情の変更を理由に養育費の減額を求める義務者は、家裁の調停又は審判によって、新たな養育費の内容を定めることが可能となる。「義務者が請求異議訴訟によって従前の債務名義を争う方法も存在するが、養育費の額を争い、新たな養育費の内容を定めることを求める事案の解決としては」、家裁の調停又は審判によるのが相当であり、「新たな養育費の内容を定める前提として、「従前の債務名義に基づく強制執行の停止を求めるため、請求異議訴訟を提起しなければならないと解することは、義務者に不要な負担を強いるものであり」、「端的に養育費の減額を求める調停又は審判に伴う保全処分として強制執行停止の申立てをするのが相当である」として、原審判を取り消し、本案認容の蓋然性について更に審理を尽くさせるため、本件を原審裁判所に差し戻しこととした。(B)

No.12

中国の裁判所で成立した養育費に関する調停につき、民事訴訟法118条4号の規定する「相互の保証」があるとは認められないとして、新規の養育費算定の審判をした事例

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横浜家裁川崎支部2021(令3)年12月17日審判
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家庭の法と裁判43号96頁
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事案の概要

 いずれも中国国籍で未成年の子(2006年生)がいた申立人(母)と相手方(父)夫婦は、2010年に、中国上海市第二中級人民法院において、子の親権者を母と定め、父が母に対し子の養育費として月額1800人民元を、3か月ごとに支払う旨定めて、調停離婚(以下「前件調停」という)した。前件調停時から現在まで、双方とも日本に住所を有し、子は2013年から日本で母と暮らしている。母は、再婚し、再婚相手との間に長女(2015年生)をもうけ、父も、再婚し、再婚相手との間に長女(2013年生)と二女(2016年生)をもうけた。2021年、母は、扶養家族の変動、子の居所の変更などを理由として、養育費(増額)調停を申し立てたが、不成立となり、審判に移行した。

審判の概要

 「中国の裁判所による裁判は、相互の保証があるとは認められず、わが国において承認されるものではないから」、「前件調停を変更することなく、新たに養育費を定める」とした。なお、標準算定方式に基づき、父の基礎収入を基に、子の生活指数を85、父の再婚相手、及び、再婚相手との間の長女・二女の生活指数をいずれも62として、父が子に当てられる生活費を算出し、これを、母及び父の基礎収入で按分すると、月額4万円となる。さらに、諸事情を総合考慮した上でも、養育費を月額4万円とするのが相当であるとした。(SH)

No.11

標準算定方式により婚姻費用分担額を算定するに当たって、年金収入を給与収入に換算する場合には、職業費がかかっていないことから修正計算をした一方で、年金収入を事業収入に換算する場合には、事業収入は既に職業費に相当する費用を控除済みであるとして修正計算は必要ないとした事例

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東京高裁2022(令4)年3月17日決定
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家庭の法と裁判42号46頁
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事案の概要

 60代夫婦は、2013年に婚姻し、2020年6月に別居した。同月、妻はその長女を介して夫に婚姻費用の支払いを請求した。妻は別居当時から無職で、老齢基礎年金が唯一の収入であるのに対し、夫は公的年金を受給しているほか、2021年8月まで自営業による事業収入も得ていた。妻は婚姻費用分担請求の調停を申立て、審判に移行した。

 いわゆる標準算定方式により婚姻費用分担金を算定するには、先ずは、受給した年金収入を給与収入及び事業収入のいずれかに換算して当てはめる必要があるところ、妻及び夫の2021年9月以降の年金収入をそれぞれ給与収入に換算し、さらに、夫の2021年8月までの収入は、その自営業収入に加え受給した年金収入を事業収入に換算して加算する必要があった。

決定の概要

 標準算定方式を適用する際の収入金額の認定に当たり、年金収入を給与収入に換算する場合には、年金収入については給与収入と異なり職業費の支出を考慮する必要がないため、近時の統計資料に基づく職業費が総収入に占める割合のうち15%を採用して修正計算した。

 他方、夫に自営業収入と年金収入のある期間の収入を算定するには、これらを合算するために年金収入を事業収入に換算する必要があるところ、本件では確定申告書に記載のある所得金額は、売上から売上原価及び経費を差し引き、更に青色申告特別控除額を控除したものであるので、これに現実に支出されていない青色申告特別控除額及び減価償却費を加算した額から社会保険料を控除した残額を本件事業収入と認めた。このように算定した本件事業収入は、既に職業費に相当する費用を控除されたものであるから、年金収入を事業収入に換算するに当たっては、前記のような職業費についての修正計算は必要ないとし、本件事業収入と年金収入とを合算してその間の事業収入とした。(SH)

No.10

夫が負担すべき婚姻費用分担額の算定に当たっては、妻が受給している生活保護費を収入と評価することはできず、現時点においては、妻に潜在的稼働能力があるとは認められないとした事例

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東京高裁2022(令4)年2月4日決定
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家庭の法と裁判41号60頁
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事案の概要

 夫婦は、2007年に婚姻し、三子をもうけた。妻は、2020年3月に、子らを連れて夫と別居し、同年4月、妻は、夫に対して、婚姻費用分担調停の申立てを行ったが、翌月、調停不成立となり、審判に移行した。

 妻は、別居後、2020年6月から生活保護費を受給したが、他方、2016年11月から障害基礎年金を受給しており、2021年には、合計年金額130万5200円の支給決定を受けた。

 原審(東京家裁)は、妻の収入について、生活保護費はその趣旨から収入と評価することはできず、また、現段階では、今後の就労の見込みは立っていないとして、障害基礎年金のみを収入として、給与収入に換算した153万5529円を収入額とした。夫の収入額についても、給与収入に夫の障害厚生年金を加算し612万5256円と認定した上で、標準算定方式・算定法に基づき、夫の負担すべき額は月額13万円とした。夫が即時抗告し、妻には就労能力があると主張した。

決定の概要

 生活保護法4条1項、2項に基づき、妻及び子らの生活を維持するための費用は、民法上扶養義務を負う夫による婚姻費用の分担によって賄われるべきであり、妻が受給している生活保護費を妻の収入と評価することはできない。また、妻の病歴や障害等級、就労実績、医師の見解、現在の状況等に鑑みると、妻は、当面就労することが困難であり、現時点において潜在的稼働能力があるとは認められない。したがって、原審判の認定説示したとおり、夫の負担すべき婚姻費用分担額は月額13万円とするのが相当である。(B)

No.9

減額後の役員報酬額をもって夫の収入と認定した上で、夫の前婚の子に対する養育費や住宅ローンの負担による修正を行って婚姻費用月額を算定した事例

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東京家裁2021(令3)年1月29日審判
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家庭の法と裁判39号72頁
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事案の概要

 夫と妻は、2016年に婚姻し、2018年に長女が生まれた。2019年11月に夫が自宅マンションから出て妻らと別居したことから、2020年1月に、妻が婚姻費用分担調停を申し立てた。妻は、就労しておらず、無収入である。夫は、代表取締役をしている会社の売り上げが新型コロナウイルス感染症の影響もあって大きく落ち込んだことから、2020年5月に取締役会決議により役員報酬を減額されている。なお、夫は、前婚の子(長男)に対して支払っていた養育費も同年6月から減額して支払っている。同年11月婚姻費用分担調停は不成立となり、本件審判に移行した。

審判の概要

 婚姻費用分担の始期を調停が申し立てられた2020年1月とし、標準算定方式に基づいて検討した。

 当事者双方の収入は、妻の収入についてはゼロとし、夫の収入については、夫の会社の売上の減少が新型コロナウイルス感染症に伴うものであって、いつまで継続するのか予測が困難であることからすると、役員報酬を減額するという判断が不当なものということはできないとして、2020年6月からは減額後の収入額とした。さらに、夫の年収に基づく基礎収入から、長男に対して支払っている扶養料実額を控除して、夫の基礎収入とした。子が現実に学校教育費を要していないという事情は、最終的な婚姻費用額を定めるに当たって考慮される事情となることはあっても、生活費指数を変更すべき事情としては考慮すべきではないとした。

 妻らのみが居住しているマンションの住宅ローンの支払については、権利者が無収入であったとしても、妻の収入区分について必要とされている住居関係費を月額の婚姻費用額から控除するのが公平の観点から適当であるから、婚姻費用額から控除した。マンションの管理費、ルーフバルコニー使用料、インターネット使用料月額については、居住者である妻らにおいて負担すべきものであるから、婚姻費用額から控除した。他方、修繕積立金は資産形成の一環としてされているものであるとして、婚姻費用月額から控除しなかった。最終的な婚姻費用月額については、長女が現在学校教育費を必要としていないなどの事情を考慮し、夫が分担すべき婚姻費用は、2020年1月から5月までは月額33万円と、同年6月以降は月額20万円とした。(B)

No.8

私立高校の学費等のうち公立学校教育費を超過する分の負担割合について、夫婦双方の基礎収入額に応じて按分するのが相当とした原審判の判断を維持するとともに、別居時から調停申立時までの婚姻費用又は扶養料の請求につき、不足分の清算の要否は離婚に伴う財産分与の判断に委ねるのが相当とした事例

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東京高裁2020(令2)年10月2日決定
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家庭の法と裁判37号41頁
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事案の概要

 夫婦は、1999年に婚姻し、長男(2000年生)と長女(2002年)をもうけたが、2013年1月から別居している。2019年4月、妻が婚姻費用分担調停を申し立てたが、不成立となり、審判手続に移行した。妻は、調停申立て前の2018年4月以降の婚姻費用分担金の支払を求め、そのうち2018年4月から2019年3月までの婚姻費用分担金が認められない場合に備えて予備的に、民法877条に基づき、当該期間に支出した未成年者らの学費等につき扶養料としての支払いを求めた。

 原審(水戸家裁土浦支部)は、夫の収入を約970万円、妻の収入を約130万円とし、標準算定方式に基づき、夫が妻に対して負担すべき婚姻費用分担金は月額22万円から24万円になると試算したうえで、予備校に通う長男及び私立高校に通う長女の学費等については、世帯収入(約1087万円)に照らし約37万円が標準算定方式における公立学校教育費として考慮されているとし、これを超過する分は、夫婦双方の基礎収入に応じて按分すべきであり、夫は上記超過分のうち87%を負担することになるとした。本件経緯に照らして、婚姻費用分担額を定めるべき始期は2019年4月とし、夫に対し、同月から2020年5月までの未払婚姻費用分担金186万円を直ちに、同年6月から2021年3月までは長女の学費等を加算した月額25万円を、同年4月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまでは月額22万円を支払うよう命じた。申立て前の婚姻費用については、妻の請求の意思が確定的に表明されていたとまではいえないとし、また、予備的請求は、理由がないとして却下した。夫婦は、これを不服としてそれぞれ即時抗告した。

決定の概要

 学費等の算定につき当事者間で二等分すべきという夫の主張に対し、夫婦の年収等が上記のとおりであることを前提とすると、超過分の学費につき基礎収入割合とすることが不相当であるとはいえないとして、これを却け、原審判断を維持した。また、2018年1月には婚姻費用分担金の増額を、同年4月から12月までの学費等を含む分担金の支払いなどを、それぞれ請求していたという妻の主張に対しては、夫がその一部を支払い、これに対して妻が不足分を直ちに請求していたことを認めるに足りる資料がないことを考慮すると、「不足分の清算の要否は手続の迅速性が要請される婚姻費用分担審判や扶養料の審判においてではなく離婚に伴う財産分与の判断に委ねるのが相当と解される」とし、調停申立て前の婚姻費用分担金又は扶養料の支払いは認めなかった。なお、2021年4月からの婚姻費用分担金額については、原審判を変更し、同月以前と同様に月額25万円の支払いを命じた。(KI)

No.7

失職した義務者の収入について、潜在的稼働能力に基づく収入の認定が許されるのは、就労が制限される客観的、合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合でなければならないとして、夫に婚姻費用分担を命じた原審判を取り消し、妻からの申立てを却下した事例

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東京高裁2021(令3)年4月21日決定
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家庭の法と裁判37号35頁
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事案の概要

 夫婦は、2017年に婚姻し、2019年8月に別居した。その後、夫婦間の子(抗告審決定時1歳)が生まれ、妻が養育監護をしている。妻は、無職、無収入である。夫は正社員として勤務していたが、2020年6月、自殺をほのめかす言動をして警察官に保護され、同月、勤務先を自主退職した。この会社の前は、営業職社員や派遣社員として勤務していた。2020年8月、妻が婚姻費用分担調停を申し立てたが、不成立となり、審判手続に移行した。同年11月付けの「主治医の意見書」によると、夫は、現状において就労は困難であるが、環境が落ち着き症状が改善されれば就労は可能と診断された。また、自主退職後、就職活動をして雇用保険の給付を受けたことがなく、現在においても就労しておらず、2021年3月には、精神障害者保健福祉手帳の交付申請をした。

 原審(宇都宮家裁)は、夫は退職して無職であるが、稼働能力が全くないとは認められず、2019年分の給与収入348万7701円の5割である174万3850円程度の稼働能力にとどまるものと認めるのが相当であるとし、そのうえで、月額4万円の婚姻費用分担金の支払等を命じた。夫が抗告した。

決定の概要

 「婚姻費用を分担すべき義務者の収入は、現に得ている実収入によるのが原則であるところ、失職した義務者の収入について、潜在的稼働能力に基づき収入の認定をすることが許されるのは、就労が制限される客観的、合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合でなければならないものと解される。」とし、本件においては、夫が以前に複数の勤務先で働いた経験を有していること、自主退職してから現在まで1年が経過していないことを考慮しても、上記の特段の事情があるとは認められず、現在の状態下では夫に婚姻費用の分担金の支払いを求めることができないとして、原審判を取り消し、妻からの申立てを却下した。(KI)

No.6

婚姻費用分担の始期は、調停申立時ではなく、申立人が内容証明郵便で分担を求める意思を確定的に表明した時点を基準とし、同分担額の算定は、改定標準算定方式及び改定算定表の公表前の未払分を含めて、同算定方式等により算定するのが相当であるとした事例

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宇都宮家裁2020(令2)年11月30日審判
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家庭の法と裁判36号129頁
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事案の概要

 夫婦は2018年に婚姻したが、2019年7月頃から別居し、妻は子と生活している。妻は夫に対し、同年8月、内容証明郵便により、婚姻費用として月額8万円を請求した。同年9月、妻は婚姻費用分担調停(前件調停)を申し立てたが、婚姻費用の支払の始期を遅くとも前件調停の申立日とすることを双方が合意し、妻は前件調停を取り下げた。妻は、同年11月、婚姻費用分担調停(本件調停)を申し立てたが、2020年8月、本件調停は不成立となり審判手続に移行した。

審判の概要

 婚姻費用分担の始期について、婚姻費用分担義務は生活保持義務に基づくものであること及び当事者の公平の観点に照らし、請求時を基準とするのが相当であるとし、本件では、妻が夫に対し、2019年8月、内容証明郵便をもって婚姻費用の分担を求める意思を確定的に表明したことから、始期を調停申立時ではなく、2019年8月からとした。

 婚姻費用分担額の算定については、「資産、収入その他一切の事情を考慮して」(民法760条)、合理的な分担額を定めるのが相当であるところ、東京・大阪養育費等研究会提言(2003年4月)の(旧)標準算定方式及び算定表に、現在の家庭の収入や支出の実態等、より現状の社会実態に即した改良を加えた改定標準算定方式及び改定算定表(2019年12月23日公表)に基づいて算定するのが合理的であるとし、同算定方式等は、そもそも法規範ではなく、婚姻費用分担額等を算定するにあたっての合理的な裁量の目安であり、同算定方式等は、合理的なものといえるから、同算定方式等の公表前である2019年12月以前の未払分についても、当事者間で(旧)標準算定方式及び算定表を用いることの合意が形成されているなどの事情がない限り、改定標準算定方式及び改定算定表により遡及して算定するのが相当であるとした。(KO)

No.5

子が成人後外国の大学に進学した費用を、父に求めた扶養料支払請求について、父が既に相当額の養育費等を支払っていることや父にとり子の国外の大学への進学が想定外だったことなどを理由に、申立てを却下した事例

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岡山家裁2019(令1)年6月21日審判
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家庭の法と裁判33号111頁
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事案の概要

 子(申立人、1996年生)の父母は、2014年の和解離婚に際し、父(相手方)は母に対し養育費として、2016年4月(子が成年に達する月)まで月25万円を、その時点で子が大学等に在籍しているときは卒業ないし退学する月まで引続き月25万円を支払う、子が大学等在学中に留学を希望する場合、その費用負担に応じる旨を約した。子は、2015年3月に高校卒業後、希望大学に入ることができず、2016年4月から約1年間英会話学校に通い、2017年6月にa国に渡航してb大学提携の語学学校に通い、2018年1月に2年間在籍する予定でb大学に入学した。子は母から、英会話学校の授業料等として約285万円、b大学の授業料、2016年4月から2018年8月までの生活費として合計約690万円の仕送り等を受けた。子は、a国での生活費及び年2回の渡航費用が必要であると主張した。父は母に対し、2014年9月までに離婚の解決金として2035万円を、2016年10月まで養育費として月25万円を支払った。母は、父に対し、翌月以降の養育費の支払いと留学費用の支払いを求めたが、父は拒否した。父は開業医で、2011年の所得は約5065万円であったが、最近の収入についての資料提出を拒んだ。父は2018年にうつ病と診断され、患者の数を減らしながら業務を続けている。母の2018年の収入は約416万円であった。

審判の概要

 成年に達した子は、原則として自活すべきであり、成年に達した子に対する親の扶養義務は生活扶助義務にとどまるが、子が四年制大学に進学し学費や生活費が不足する場合は、諸般の事情を考慮して、扶養料の額を定めることも認められる(東京高裁2010(平22)年7月30日決定)。我が国では、国外の大学に進学することは一般的ではなく、国外の大学への留学費用は高額になる傾向があることは明らかであり、国外の大学に進学する必要性は国内の四年制大学への進学と比べて小さい。そして、父は、子が国内の大学に進学した上で、一時的に留学することは想定していたものの、国外の大学への進学を承諾していた事情は見当たらず、子や母が父に対し、国外の大学進学を検討していることや費用負担について事前に相談した形跡はないこと、子は国外の大学への進学を成人後に決定しており、その判断による責任は子自身が負うべきであること、父から母には既に多額の解決金や養育費を支払われたことを考えると、子は、母の支援を前提に留学したと考えられる。これらに加え、父の体調が芳しくないことを考え併せると、父に国外の大学進学費用を負担すべき義務を負わせるのは相当でないというべきとして、子の申立てを却下した。(KO)

No.4

実父が子の養子縁組の可能性を認識しながら調査、確認せず3年余にわたり約720万円の養育費を支払い続けたこと等を考慮し、実父の養育費支払義務が免除される始期は実父が養育費免除の調停を申し立てた月であるとした事例

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東京高裁2020(令2)年3月4日決定
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判時2480号3頁
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事案の概要

 抗告人(母)と相手方(実父)は、2014年5月、未成年の子3名の養育費として、実父が母に、子らがそれぞれ大学を卒業する月まで、1人当たり月額6万円を支払うこと及び実父と母の親族構成に変化があったときは、遅滞なく他方に通知することなどを合意して協議離婚した。2015年11月、母は再婚し、翌月、再婚相手(養父、原審利害関係参加人)は子らと養子縁組した。2018年の実父の給与収入は年1320万円、養父の課税所得は年3870万円であった。実父は2019年5月、養育費の支払い免除を求めて調停を申し立て、その後審判に移行した。

 原審は、養子縁組により実父の養育費支払義務は、2015年12月の縁組日から免除されるとした。母と養父が抗告した。

決定の概要

 子が親権者の再婚相手と養子縁組した場合、子の扶養義務は、第一次的には親権者及び養親が負うべきものであり、親権者及び養親がその資力の点で十分に扶養義務を履行できないときに限り、第二次的に実親が負担すべきことになるから、養父が高額の連帯保証債務を負っていることなどの事情があるとしても、抗告人ら(母及び養父)がその資力の点で子らに対して十分に扶養義務を履行できない状況にあるとはいい難いとして、実父の養育費支払義務を免除するのが相当とした。他方で、養育費支払義務の免除の始期については、養子縁組の翌月(2016年1月)以降、実父は合計720万円の養育費と長女の留学に伴う授業料を支払ったもので、既に支払われて費消された過去の養育費につき法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは、抗告人らに不測の損害を被らせること、実父は母から2015年11月に養子縁組をする予定との報告を受けており、養子縁組の有無を調査、確認することが可能な状態にあったこと、実父は子らの福祉の充実の観点から養育費を支払い続けたものと評価することも可能であること等を総合考慮して、実父が養育費の支払い免除の調停を申し立てた2019年5月からに変更した。(B)

No.3

前件審判後の抑うつ状態のための減収を理由とする婚姻費用減額の申立てについて、前件審判を変更すべき理由が認められないとして、減額変更を認めた原審判を取り消し申立てを却下した事例

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大阪高裁2020(令2)年2月20日決定
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家庭の法と裁判31号64頁
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事案の概要

 夫婦は2011年に婚姻したが、2016年1月から別居し、妻は子(2012年生)と生活している。妻は同年4月に婚姻費用分担調停を申し立て、同年12月、夫に月額6万円の支払いを命じる審判が出て、確定した。夫は2018年4月まで月額6万円の婚姻費用を支払っていたが、子と面会できなくなった同年5月以降一切支払わなくなった。夫は同年10月、抑うつ状態で勤務先を退職し、求職活動をしているが不採用となっていることなどを理由として婚姻費用分担金を0円とするよう求める婚姻費用減額調停を申し立てた。

 原審は、夫の精神状態、年齢、従前の職歴等考慮し、従前の総収入の6割の収入を得られる蓋然性はあるとして、減額した月額3万円の支払いを命じた。夫が即時抗告した。

決定の概要

 夫(原審申立人、抗告人)の稼働能力について、夫は2018年10月20日に勤務先を自主退職したが、退職直前の収入は前件審判時における収入と大差なかったこと、抑うつ状態のため休業加療が必要であるとする診断書には具体的症状の記載がなくどのような形態であれば就労可能であるのか明らかではないこと、夫は退職後、2019年春頃に第一種衛生管理者の免許等を取得し、2019年秋頃には大学の通信教育課程の入学試験に合格し、2020年に入学予定であること等から就労困難であるほどの抑うつ状態であるとは認められないこと、婚姻費用を支払わないのに大学の入学金や学費20万円を支払っているのは不相当であることなどから、夫は前件審判当時と同程度の収入を得る稼働能力を有しているとみるべきであるとした。したがって、夫の精神状態や収入の減少は婚姻費用分担金を減額すべき事情の変更ということはできないとして、原審判を取り消し、夫の申立てを却下した。(KO)

No.2

夫が収入の減少を理由に婚姻費用の分担額の減額を求めた事案において、事情の変更を認め、かつ、夫が65歳で受給開始していれば受給できた年金収入をも合算して算定するのが相当であるとして、原審判を一部変更した事例

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東京高裁2019(令1)年12月19日決定
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家庭の法と裁判30号78頁
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事案の概要

 抗告人(妻)と相手方(夫)は、2018年3月に成立した婚姻費用分担調停において、夫が支払うべき婚姻費用の分担額は月20万円と合意した。夫は、当時、年額1652万円の給与収入を得ていたところ、2018年6月に会社の取締役等を退任して再雇用となり、同年7月からは月額55万円の給与収入を得たが、2019年3月31日には同社を退職し、その後は稼働しておらず、収入は配当のみである。夫は、同年6月に減額を求めて調停を申し立て、審判に移行した。夫は、年金受給資格はあるが受給しておらず、70歳まで受給するつもりはない。

 原審は、前件調停成立時に前提としていなかった収入状況の大きな変動などの事情の変更が生じ、改めて婚姻費用分担額を定めるのが相当であるとして、①2018年7月から2019年3月までは月額15万2000円、②同年4月からは配当収入のみを基礎として算定した月額3万2000円と変更した。妻が、これを不服として抗告した。

決定の概要

 夫の稼働状況及び収入の大きな変動により、合意された婚姻費用を変更するのが相当とした。そして、②について、「同居する夫婦の間では、年金収入はその共同生活の糧とするのが通常であることからすると、これを相手方の独自の判断で受給しないこととしたからといって、その収入がないものとして婚姻費用の算定をするのは相当とはいえない。」として、配当収入に加え、夫が65歳で年金の受給を開始していれば受給できる金額を基礎収入に加算して分担額算定の基礎とした。したがって、夫が支払うべき額を月額9万2000円と変更して、原審判を一部変更した。

 なお、現在受給していない年金収入を基礎としたことにつき、「このような取り扱いをする以上、今後、実際に相手方が年金の受給を開始し、受給開始時期との関係で前記の金額よりも高額な年金を受給できたとしても、基本的には、当該高額な年金の受給に基づいて婚姻費用の算定をすることはできず、この事実をもって、婚姻費用を変更すべき事情に当たるものと認めることもできないということになる。」と付言した。(B)

No.1

幼児教育・保育の無償化制度が開始されたことを理由とする婚姻費用分担額の減額が認められなかった事例

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東京高裁2019(令1)年11月12日決定
出典
判タ1479号59頁
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事案の概要

 抗告人(夫、原審相手方)と相手方(妻、原審申立人)は、2012年に婚姻した夫婦であり、子が2名(2014年生、2018年生)いる。夫婦は2018年7月から別居し、妻は子2名と生活している。妻は、2018年1月に婚姻費用分担調停を申し立てた。

 原審は、標準算定方式に基づき婚姻費用の額を算定し、長女の私立幼稚園及びお稽古事の費用については標準算定方式で考慮されている額を超えた額の2分の1(1万6000円)を加算し、婚姻費用分担額を月額25万8800円とし、夫に対しこれらの支払いを命じた。

 夫は、原審が婚姻費用に加算した月額1万6000円の長女の教育費について、2019年10月から幼児教育・保育の無償化が開始され、私立幼稚園も月額2万5700円までは無償化されるので、教育費の加算に当たっては同額を控除すべきであるなどとして抗告した。

決定の概要

 「幼稚園やお稽古事の費用の全部又は一部については、標準算定方式に基づく試算額に加算して婚姻費用分担額を定めるのが、当事者間の衡平に適う」、「幼児教育の無償化は、子の監護者の経済的負担を軽減すること等により子の健全成長の実現を目的とするものであり(子ども・子育て支援法1条参照)、このような公的支援は、私的な扶助を補助する性質を有するにすぎないから、上記制度の開始を理由として令和元年10月からの婚姻費用分担額を減額すべきであるとする抗告人の主張は採用できない。」として、夫の支払うべき婚姻費用の分担額を原審判どおり月額25万8800円とし、精算金は既払分を控除する等して原審判を一部変更した。(KO)